初陣
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ドアが、勢い良く開かれた瞬間。
真理は、飛び起きていた。
明かりは消えたままだが――分かる。
早紀、だ。
予感はなかった。
本当に、何も感じないのだな、とその事実を噛み締める瞬間でもある。
「空蝕だな?」
駆け込んでくる早紀の言葉より早く、真理は問うた。
闇の中で、もつれるような動きの彼女は、首がもげんばかりに頷く。
蝕に気付けるのは――鎧だけ。
いや、そうではない。
逆に、鎧は蝕を知るために、特別に作られたものだ。
ああ。
真理は、あの早紀にさえ飛び込んでこさせる空蝕というものに、武者震いした。
震えながら、早紀の額に指を伸ばしていた。
「いくぞ…」
ガシャンっ!
早紀の身体が、人型という枠を超える。
その変貌すら、いまの真理には長く感じた。
早く、と。
早く、俺を飲み込め。
そして、一秒でも速く、蝕にたどり着かせろ。
一瞬よぎった、トゥーイの姿。
あの3rdより、真理は優秀でなければならない。
でなければ、カシュメル家は4thのままだ。
父親が早く死んで、極東エリアに空席が出来ている間、彼は沢山の恥辱を受けた。
彼だけでなく、極東エリアの全席が、それに耐えなければならかったのだ。
大敗、そして長い空席。
その汚名をすすぐ機会が、ようやくにしてやってきたのである。
真理は待ちきれずに、鎧が出来上がろうとする、闇の煙に手を伸ばす。
鎧は、そんな真理を――受け入れた。
※
窓から、飛び出す。
派手にガラスの砕け散った音も無視して、真理はすっ飛んでいた。
鎧を纏ったら、いきなり視界が開けたように、蝕を感じたのだ。
高い、高い空へと一直線で向かう。
鎧の高揚も、真理にダイレクトで伝わってきた。
早紀の生来のものとも思いがたい、野生的な衝動。
それに突き動かされているのか、いつもの馬鹿セリフが聞こえてこない。
これは、早紀が例のステルスモードに入ったということだろうか。
ステルスが発動した早紀からは、感情のリンクさえも外されているように思えるのだ。
始まったばかりの蝕が目に入った時。
同時に、火花が見えた。
彼らより、速い連中がいたのだ。
しかも。
味方と――敵の両方。
まだ、一対一のようだ。
味方は。
1st!!
鎧から、それを判断する。
さすが、速い。
そう理解している間にも、二人の戦いは続く。
真理は飛びながら、右手を自分の鎧の胸にあてた。
そこに――武器があるはずだった。
が。
鎧が、反応しない。
武器を出そうとしないのだ。
鎧である早紀に、武器の場所を問いただそうとした時。
自分の首が、勝手に後ろを向く仕草を見せる。
……。
それに気付いて、真理は眉をひそめた。
右腕を、首の後ろに回すと。
それは――あった。
背中から、それを引き抜く。
長く、長く。
そして、反りかえった刀。
野蛮な刀か。
多少の失望は、あった。
水馬刀と呼ばれるものに近いそれは、魔族にとっては低級な扱いだったからだ。
しかし、既に戦いは始まっていて。
真理は、武器の優劣にケチをつけている暇はないのだ。
まずは、一太刀。
いまいる敵に、挨拶をするのが先だった。