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極東4th  作者: 霧島まるは
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ようこそ

 闇の帯に、右手を伸ばした刹那──帯の方が、早紀の手を取らえた。


 音もなく、それは彼女の肘まで這いあがり闇に染める。


 気持ち、悪い。


 冷たい、ではない。


 温度がないのだ。


 温度のない何かが、早紀を虚空へ飲みこもうというのか。


 真理がそれに気付き、抱いた彼女の身体ごと引き戻そうとする。


「めんどくさい…覚悟決めてあんたも来なさいよ」


 そんな彼を。


 貴沙は、もう片方の手で逆に引っ張った。


 本当に思う通りに生きる魔女である。


 しゅるんっ。


 早紀を抱いたままバランスを崩した真理も、帯が絡め取る。


 一瞬。


 彼の眉間に、皺が刻まれた。


 まったく。


 そんな表情。


 困ったことに、その顔に早紀は微かな笑いを覚えてしまったのだ。


 こんなとんでもない空間で、それでも『まったく』程度で扱ってしまう彼に。


 だが、その笑みごと早紀は帯に全てを包まれた。


 温度のない闇の空間は、しかしさっきまでの落ちてきた場所とは違う。


 何かの映像を巻き戻しで見ている映像が、脳に叩きつけられるのだ。


 自我を忘れるほどの、膨大な情報。


 記憶という記憶を全て叩きだし、その代わりに居座ろうとするショッキングでグロテスクで禍々しい何かの意識。


 身体が痛いのではなく、脳がちぎれそうに痛い。


 見たくないとか、嫌とか思う隙間もない、脳内的拷問が終わったのはいつだったか。


 目を開けるのに、長い時間がかかった気がする。


 早紀は、横たわっていた。


 誰かが側に立っている。


 光っているのに黒いものが、そこにはあった。


「「「よぉ」」」


 ハウリングするような強い音に、早紀は強く目をとじた。


 目を閉じたところで耳はふさげないのだが、いまはそれが精いっぱいだった。


 だが。


 その声を、早紀は知っていた。


 もう一度、目を開ける。


「「「ようこそ、オレの部屋へ」」」


 ゥワンゥワンと唸りを上げる声の先には──あの男が、いた。



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