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極東4th  作者: 霧島まるは
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二人羽織

---

 その感覚を、早紀はどう表現すればよかったのだろう。


 またも、彼女は真理より背の高くなった視点で、彼を見ていた。


 自分に向かって歩き出すその身体が。


 自分に触れたかと思うと。


 自分の中の数多くの襞を、かきわけるような感覚。


 ぬるりとした、生々しい触感。


 脳に直接手を突っ込まれたら、こんな感覚なのだろうか。


 その、言葉に出来ない違和感に、早紀が固まっていると。


『静かだな…』


 襞を、直接振動させるような響き。


 しかし、声というには少し違う。


『何だ…気持ち悪いのか?』


 笑わない音の響きが、真理のものだと分かった。


 早紀が考えていることが、どうやら伝わってしまったようだ。


 変な気分、どころの話ではなかった。


 自分の身体の中に、真理がいる、ようなのだ。


 鎧になるとは聞いた。


 しかし、それが本当に自分の内側に彼を内包する、という意味とまでは理解していなかったのである。


 いま。


 いま、早紀はどういう姿をしているのか。


『いくぞ』


 身体が。


 自分が命令を出していないはずの身体が、勝手に動き出した。


 夜の窓に向かって。


 え? え?


『抵抗するな』


 何かを振り払うように、真理の言葉とともに自分の右腕が大きく振られる。


 ぶわっと。


 窓際のカーテンが、強い風に煽られる。


「うわっ」


 窓際にいた修平が、カーテンにまきつかれて驚きの声を上げた。


 そんな音も気にせず。


 早紀の身体は── 部屋の窓から飛び出したのだ。


 ここは、二階。


 えっと。


 早紀は、一瞬固まった。


 おーちーるー!!!!



 ※



 そして── 本当に落ちた。


 ズゥシィン!


 自分の両足が、強く強く地面を踏みしめたのを感じる。


 痛みなどは、なかったが。


 びびびび、びっくりした。


 早紀は、驚きに包まれていた。


 そんな彼女に。


『うるさい…』


 真理のため息が、聞こえた気がした。


『それに…抵抗するなと言っているだろう』


 足が、動いた。


 自分の足なのに、自分の足ではない。


 二歩ほど歩いた後。


 深く曲げられた膝から、力が溢れる。


 あ?


 思った時には、上空高く飛び上がっていた。


 一瞬にして、地上の世界が遠くなる。


 屋敷どころか、町レベルで。


 ごぉっと。


 自分の身体が風を斬る。


 とん、で、る?


 その事実を、認識するより先に。


『飛んでいる…だから、暴れるな』


 さも、当たり前のように、真理が先手を打つ。


 ううむ。


 早紀は、その当たり前のような言葉の先手で、逆にパニクれなくなっていた。


 そっか。


 本当に、人間じゃないんだ。


 しみじみと、それを自覚する。


 真理と融合(?)しているような状態だし、2階から飛び降りても無傷な上に、空まで飛んでしまうし。


 変な話だなあ。


 早紀は、本当に、本当に素直にそう思ったのだ。


『…どれだけ呑気な生き物なんだ、お前は』


 真理に冷ややかに突っ込まれたことで、早紀は重大な事実に気づいた。


 考えていることが──全部真理に筒抜けだ、ということに、だ。



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