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鎧
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真理は――己の下僕を見つめていた。
彼が指でなぞった契約印から、黒く重い煙が、意思を持って吹き出す。
それが、早紀の身体を全て包み込むのだ。
ガシャン!
煙を払うように、硬い腕が現れた。
右腕から左腕、そして両の足。
黒い煙が消えてゆき。
そして、黒い鎧が現れた。
胸と兜は、一番最後。
これで。
真理の鎧は完成だ。
あの、出来損ないの魔女の、影も形もない。
「おおっ!」
修平が、駆け寄ってくる。
鎧を、より近くで見ようとするように。
だが、真理はサービスをしてやる気はなかった。
いやなことは、さっさと済ませたかったのだ。
「窓を開けてもらえますか?」
修平は、彼より年上で後見人ではあるが、それはあくまで表面上だけ。
だから、普通に彼をも使う。
「あ、ああ」
名残惜しそうに、修平が鎧から離れていく中。
真理は、目の前でつっ立つ鎧に向かって、足を踏み出した。
初めての。
鎧にぶつかることも気にせず、歩を進める。
いや、ぶつかることなどありえない。
これは、俺の鎧だ。
触れた部分から。
真理は、黒い金属に飲み込まれていった。