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極東4th  作者: 霧島まるは
12/162

真理の部屋

---

「やあ…」


 びくつきながら屋敷に帰った早紀と、前を歩く真理を待っていたのは──修平だった。


 また、なんというか、目が激しく輝いている。


 昨夜のことを思い出して、早紀はいやーな気分になった。


 また何か、あるのだろう。


 あの真理が、自分と一緒にどこかに出かけるなんて話が出るくらいだ。


「今日は…いくんだよね? 準備、見てもいいかな?」


 らんらんとした瞳で、修平は詰め寄ってくる。


「どうぞ」


 真理は、即答だった。


 何の話か分からない早紀は、二人を押しのけて屋敷に入ることも出来ず、後ろで立ち止まったまま。


 昨夜のせいで、すっかり修平恐怖症まで構築されたおかげで、早紀の心休まる場所など、自分の部屋だけとなってしまった。


 早く部屋に戻りたいなあ、と考えていると──真理が、振り返った。


 !!!!


 何と言う衝撃。


 振り返ったのだ。


 あの真理が、わざわざ彼女を認識するために!


 ありえない行動だ。


「8時に、俺の部屋に来い」


 衝撃で動けないでいる早紀に、用件だけ言い置くと、真理はさっさと屋敷の中に入ってしまった。


 言われた言葉が、更に衝撃を上乗せする。


 部屋に来い?


 アリエナイ。


 これまで、一度たりと開けたこともない真理の部屋。


 ノックさえ、したことがないのだ。


 そこに、自分が招かれた。


 真理にとって必要なことなのだろうが、早紀のこれまでの人生では考えられないこと。


 出かけるって言ってたよね。


 玄関の前に立ち尽くしたまま、数々の衝撃を乗り越えながら、早紀はそれを噛み締めてみた。


 制服で、いいのかな。


 数歩踏み出せば、屋敷の中だというのに。


 早紀は、なかなか一歩を踏み出せないままだった。



 ※



 7時58分。


 早紀は、真理の部屋の前にいた。


 制服のまま、ノックをためらっているのだ。


 正直に言うまでもなく、入りたくない。


 一緒におでかけなど、ありえない。


 勿論、真理のことは嫌いではないし、あこがれさえあった。


 しかし、自分と一緒に行動できる人とは、とても思えない。


 なのに、そんな相手と異常な契約を、してしまったらしいのだ。


 今日の早紀は、学校で生きた心地がしなかった。


 地味に地味に生きてきたことが、無駄になるとしか思えない、額の落書きのせいだ。


 だが。


 不思議なことに、早紀をじろじろ見たり、指をさしたりする人などいなかった。


 もしかしたら、彼らには見えないのか、あるいは、珍しいものではないのか。


 とにかく、その点だけは、早紀は助かっていたのだ。


 しかし。


 だからといって、真理から逃げることは出来ない。


 あーうー。


 早紀が、ノックの手を上げては下ろしていると。


「……」


 ドアが――勝手に開いた。


 冷ややかな目が、自分を見ている。


 真理だ。


「い、いま、ノックをしようと!」


 心臓が飛び出しそうになりながら、苦しげに誤魔化す早紀の手を、彼は掴むなり部屋に引っ張りこんだ。


 うええ?


 真理に触られるのは、まったく慣れていないので、分かりやすく早紀は慌てた。


「待ちくたびれたよ」


 だが、二人きりではなくて。


 うっ。


 早紀が、つい身構えてしまう相手の、修平がいるではないか。


「いよいよだね」


 早紀の様子などお構い無しに、修平は浮かれた声を上げる。


 くるり。


 真理は、彼には反応せず、早紀の方を向き直る。


 えと、なにが。


 早紀が質問する暇も、まるでなかった。


 離された真理の手が、そのまま彼女の目の前まで上がってきたからだ。


 白く細い長い指先が。


 早紀の額を――丸く撫でた。


 ガシャン!


 それは、自分の身体から聞こえた音だった。


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