呪文のように
「随分…雰囲気が変わったね」
早紀は、見つかった。
彼女のステルスを持ってしても「いる」と理解されている相手には、完璧な効力を発揮しているわけではない。
ましてや、相手は零子という目を持っていて。
そう、トゥーイだ。
授業の隙間に、早紀を見にきたのか。
「……」
黙ったまま、身構える。
タミには、既に彼女の秘密を知られているのだ。
いつ、他に漏れるか分からない。
それに。
特に、学校で気をつけるように真理に言われていた。
イデルグの双子とタミと──この二人に。
「青が…カシュメルの屋敷に来たって本当かい?」
早紀の無言など気にせず、トゥーイは質問をする。
「………」
うつむいて、唇をなお閉ざした。
真理から、引き出せなかったに違いない。
彼女から、情報を得ようというのか。
二人の、強い眼差しに射られながら、早紀は小さくなることだけに努めた。
「青が…人間の女を連れてきたって…本当かい?」
質問が。
変わった。
刹那、早紀の脳裏を駆け抜けるあの光景。
門の向こう側。
伊瀬と、その腕の中の──
唇を、強く噛みしめる。
顔も上げない。
早紀でいたい、早紀でいたい。
呪文のように、それだけを繰り返す。
そのためなら、どんな荒れ地にだってずっと伏せている。
質問と、視線が消えた。
早紀が顔を上げずにはいられないほど、はっきりと。
トゥーイは、教室の入口の方を振り返っていた。
真理が、いた。
いや──来てくれた。




