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極東4th  作者: 霧島まるは
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真理の悩み

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 真理は、隣の座席を見た。


 そこに、早紀がいる。


 毎朝、同じように続く登校風景なのだが、いつもと違うことを真理は感じていた。


 契約をしたせいだろうか。


 早紀が、どんなにちいさくちいさくなって気配を消してしまおうとしても、すぐそこに彼女が存在していることが伝わってくるのだ。


 いつもなら、2秒とかからずに忘れてしまえるというのに。


 今日の早紀は、更に小さくなろうとしているようだった。


 額の契約印のせいだろう。


 朝から、大きな絆創膏を探して走り回っていたと、使用人が言っていた。


 まあ、契約印については、真理も気になるところがある。


 学校での、周囲の反応だ。


 魔族の学校である。


 だが、同級とは言え、真理と早紀は幼少から、ずっとクラスは違った。


 真理はハイクラスで、家柄的にも同等以上がそろい踏みだ。


 早紀は、ロークラス。


 それが、今回は幸いするかもしれない。


 家柄に無縁な魔族も多いためだ。


 正直。


 一部、ソリの合わないハイクラスの連中に、早紀の契約印を見られたくないというのが、真理の気持ちだった。


 他の種族には、契約印は見えないというが、あいにくと同種族にそれを隠す方法がないのだ。


 絶対に、真理か早紀につっかかってくるに違いない。


 真理はいい。


 あしらいもできるし、黙らせ方も分かっている。


 問題は。


 この、影の薄い女。


 ハイクラスの連中にとっては、これほどのカモはいないだろう。


 特化した血も能力もない、ただ魔女というだけの存在。


 面倒なことにならないといいが。


 真理は、空気を動かさないほど静かに息を吐いた。


 ちらりと、こちらを見る早紀。


 学校もそうだが。


 真理には、他にもこの契約者についての悩ましい点があった。


 だから、魔女を使いたくなかったんだが。


 後悔の言葉など、どこにも届くはずがなかった。



 ※



 ハイクラスの真理は、一日を嫌な気分で過ごした。


 嫌な気分。


 いや、違う。


 朝は嫌だった。


 昼に、それは怪訝に変わり。


 学校が終わる時間には、憮然に変わっていたのだ。


 耳の早い生徒たちが、契約印のことを触れ回るかと思っていたのだ。


 しかし。


 下校の時間まで、それらは噂すら真理の耳に入ってはこなかった。


 まあ、わざわざロークラスを見に行く生徒もいないだろうから、今はこんなものなのかもしれない。


 憮然としたまま校門に向かうと、車が待っていた。


 中には、既に早紀が乗っているようだ。


 初日の学校は、やりすごした。


 しかし、真実の本番はここからだ。


 後部座席に乗り込むと、真理から逃げるように早紀は少し奥へと動く。


 そんな、往生際の悪い女に。


「今夜、出かける」


 一言、伝えておく。


 きょとんとした目が、こっちに向けられた。


 不思議そうな顔。


「は、はあ…いってらっしゃい」


 そして。


 あさっての、とぼけた言葉。


「お前も、だ」


 真理は、目に冷気をこめてしまった。


 びくうっと、早紀が跳ねる。


「わ、私? ど、どこに?」


 きょろきょろと、落ち着かなく周りを見回す。


 どんなに彼女が挙動不審になろうが、出かける先では何ら問題にはならない。


 それだけは、真理の救いか。


 出かけるだけなら、な。


 さて。


「あっち」を、どう自分だけで乗り切る、か。


 真理の悩みは、尽きなかった。



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