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極東4th  作者: 霧島まるは
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 夢に、歩いて入ったのは初めてだ。


 眠りに落ちていく感覚が、ひたひたと早紀の身体に染みゆく。


 染みゆくごとに、彼女はよりリアルに自分の歩みを自覚するのだ。


「早かったな…」


 その足の向こうに――彼はいた。


 黒い黒い鎧の男。


 つい少し前に会った時は、鎧からは刺がたくさん突き出ていたが、いまそれは見えない。


「また、私は死んだの?」


 早紀は、歩いてきた方向を振り返りながら、微妙な気分で聞いてみた。


「オレと契約したせいだ。だから、自分で歩いてきたろ?」


 解説を受けても、早紀にはピンとこなかった。


 ただ、もう死ななくてもよいようだ。


 自分が何になったのか、早紀はまだ分かっていなかった。


 真理から詳しく聞く前に、意識が遠くなってしまったのだ。


 そりゃ、一日に二回も死ねば疲れて当然だ。


 笑い話にもならない、そんな奇妙な表現が、頭を掠める。


 気がかりなのは、自分がほぼ全裸のまま昏倒しているだろう事実。


「なんだ、浮かない顔だな」


 鎧の男は、ニヤついた声を出した。


 この黒い存在と、早紀は何か契約したらしい。


「私…どうなったの?」


 早紀の知識はまだ、自分が魔女だった、という一点のみだったのだ。


 はっ、と。


 兜の内側が、笑いに震えた。


「面白い、面白い…知らないまま二度も死んだのか…これは傑作だ」


 笑っても笑っても、その兜は光を反射しない。


 暗く暗く沈むだけ。


「いいぜ、魔女…教えてやろう」


 この世界に、本当は光がないのか。


 はたまた、光を吸い込み続けているのか。


 鎧は、右腕を上げた。


 指の先まで分厚い黒が覆っている。


「お前は…」


 彼は、その親指で。


 自分自身の胸を差した。


「お前は…この鎧になったんだ」


 早紀は――しばらくの間、考え込んだ。


 そして。


 やはり、理解できなかった。



 ※



 目が覚めたら、自分のベッドの上だった。


 パジャマを着ているのは、きっと真理が使用人の誰かに命じたにちがいない。


 彼自身が、そんな甲斐甲斐しい真似は、絶対にしないだろうから。


 乙女らしい、自分の裸の行方よりも。


 鎧ねぇ。


 さっき帰ってきた世界のことを、早紀は噛み締めてみた。


 まだ、よく分かっていない。


 ベッドの上に座ったまま、早紀は両手を広げてみたが、生身となんら変わりがない。


「おはよう、お母さん…私、鎧になったんだって」


 枕元の、母の写真に語り掛けてみる。


 早紀が魔女だというのなら、母だって多分そうだったのだろう。


 しかし、とても魔女には見えない笑顔に、肩をすくめながらベッドを降りる。


 事件は。


 洗面所で起きた。


 早紀は、いつものように顔を洗おうと思っていたのだ。


 こんがらがったままの頭で考え事をしながら、半ば意識せずにいつもの作業を行った。


 タオルで顔を拭き、洗面所から立ち去りかけた時。


「ん?」


 早紀は、違和感に足を止めた。


 何か。


 何か、今、見えたのだ。


 おそるおそる、早紀は洗面所を振り返った。


 正確に言うと、鏡を見たのだ。


 見間違い、ではなかった。


 前髪を、がばっと持ち上げてみる。


 鏡の中の早紀の――額。


 そこには。


 赤紫の、丸に似た記号が描かれていたのだ。


「ええーっ!?」


 何回洗っても、取れなかった。



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