①
「フィー」
「……」
淡々と目の前にある書類を確認するジークに何度も呼びかけるけど、身動ぎ
一つしない。
集中すると他のこと見えなくなるタイプだもんなぁ……。
こんなに天気がいいってのに。
延々と室内に篭っていたくはない。
何しろ朝からずっとこの執務室で篭りっきりの書類仕事。
まだ13歳、ぴちぴち(笑)の男子としては。
そう。
初めて覚醒してから。
もうすぐ2年が経とうとしている。
1年位かかって、ようやく瀕死の重症から抜け出して。
後の1年はリハビリしつつ、仕事をするようになった。
まぁ、いろいろいろいろ(ジークを護衛武官にするとか、字の勉強(言葉は
分ったけど字は読めなかったから一から覚えた。ミミズののたくった字なので
自分で書くのはサインと短い文章のみ)とか、マナーの勉強とか(この辺り思
出したくはない))あったけれど。
ちなみに執務室に一緒にいるのはジークだけ。
まぁ、侍女さん達がお茶は持ってきてくれるけど。
後はこの無口なジークと2人きり。
話しながら楽しく仕事をするわけにもいかず。
……というか,そんなことをしてたらジークに小言を言われるのだ。
それは、もぅ、ちくちくと。
「フィーディーってば!」
大声で呼びかける。
……反応なし。
「……陰険……薬学マニア……」
ぴき。
あ。
青筋が一本増えた。
聞こえてはいるんだね、一応。
とっても小声で言ったのに。
悪口だけは聞こえるらしい。
地獄耳だねっ。
「……フィーってば!……」
「……聞こえております、我が君」
「じゃあ、返事して。いつもフィーが言ってることじゃないか!」
「……」
無言で返される。
目の前にいる男が実は意外と大人気ないことを知ったのは1年程前である。
「……フィー」
くっそぅ。
フィーディーって呼ばれるの嫌がるからなぁ……。
「……」
「……ジーク」
「……はい」
「……街に下りるの、今日の午後からでしょ?」
「……」
「……まだ怒ってるの?」
「いいえ」
「ちゃんとカートと一緒に行くから大丈夫だって」
「ファレル様は文官でしょう。街は危険だと何度も申し上げたはずです」
あーいえばこういう。
「……」
……っち。
手を変えよう。
「だって、ね?もう一年も前なんだよ?街に行ったの」
上目遣いで、顔をちょっと傾げて……と。
「一人で行くなんていってないよ?」
「……」
「……カートと一緒だし。ね?」
「……」
うーん。
駄目かなぁ……。
シリルと宰相はこの手で陥落したのにッ。
「……わかった。お前も一緒に行けばいいから」
「……(はぁ)仕事を終えてからならば構いません。陛下の真似だけはなさ
いませんように」
はあぁ。
やぁっと折れてくれた。