⑧
順調に旅程は進んで。
明日はタイランの国境につく。
「カート、明日市場で食糧買うんだっけ?」
「はい。そろそろ無くなって来ていますから」
ああ。
小さくて可愛いね、カート。
必死に布袋を扱うのがハムスターっぽい。
「あ。そうだ」
「どうされたのですか?」
訝しげにこっちを見る若干2名。
「その袋貸して?」
「はい」
カートが袋をこっちに渡す。
「『重量1/10』『空間10倍』『鮮度維持』な『買い物袋』になれ」
ベシュゥゥゥ。
「これで生鮮食品買っても大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
「……力使ったらお腹すいた」
すかさずリーナが干し杏をくれる。
「美味しいからこれ好き」
口の中に放り込んだ瞬間。
ぐるぅおおおぉぉぅ!!!
あんまり聞いていたい声じゃないな。
「ジーク」
「おそらく闇化した獣でしょう。倒してきますので此処でお待ちを」
なんらかの方法で負の感情を取り込んでしまった生物――……それが人でも
動物でも……――は、闇化する。
通常の数倍に膨れ上がった力と数十倍に膨れ上がった凶暴性。
冒険者ギルドに登録した人が退治する対象である。
ちなみに、闇化した獣は倒すと黒い霧状になって消滅する。
獣と違って、皮も肉も残らないのである。
それじゃあ倒しても旨味はないし、第一倒した証拠が残らない……と、
言いたい所だけど不思議なことに透明な塊を残すらしい。
晶貨の原料ともなるそれはかなりの金額で取引される。
大抵はギルドから国が買い取って晶貨にするんだけど。
「ジーク遅いね~」
もぐもぐもぐ。
「時間がかかっていますね」
「見て来ましょうか?」
むぐむぐ。
「あ。帰ってきたみたい」
「おかえり~」
帰ってきたジークの足元に、8歳くらいの男の子がジークのズボンを握り締
めていました。