⑨
調停式まで後1週間となった日。
ハロルド様の執務室でいつも道理仕事を進めていたのだが。
サラサラサラ。
………………サラサラサラ………………。
ペンッ。ペンッ。ペンッ。
サラサラサラ。
………………グリグリグリ………………。
ペンッ。ペンッ。ベシッ。
うん?
今、普通に書いていれば聞こえない、怪しい音がしたような。
思わず顔を上げると、苛苛とした顔のハロルド様がいた。
御疲れなのか?
もう少しで一息つくのだが。
サラサラサラ。
………………ガリガリガリ………………。
ペンッ。ペンッ。バシィッ。
……印は大丈夫だろうか?
それに、サイン時に書類に穴が開くほどの力を込めるのは御止め下さい。
サラサラサラ………………サラサラサラ………………。
………………コロコロコロ………………。
バッサ。バッサ。バッサ。
「……少々お休みしましょうか?」
これ以上重要書類が駄目になるのは見ていられない。
ご自身も集中が切れておいでのようだし。
「んぁ?」
呆然となさっているのか、言葉少なだ。
自分が何を為さっていたのか気付いておられないのか。
一、二、三……―――。
「うぎゃぁあああああ。何これぇぇぇ!!!重要書類に穴がぁあああ」
だ、誰がしたの?と叫ぶ殿下。
暑さに弱いらしい。
「だいぶお疲れのようですね、ハロルド様」
「……ジークは平気みたいだね?何この暑さ」
「昨年と同じかと思いますが?」
「ぅ~ぁ~。熱いよぉ」
執務用の机から離れ、居室内の一番涼しいところを求めて移動しているようだ。
……ハロルド様。絨毯を剥ぐって石の上に寝転ぶのは御止め下さい。
「……扇風機欲しい」
せんぷうき?
また妙なことを言い始められた。
「……」
「風車のさぁ。小さな奴を作って~……ぃや。熱風が来るか。ぅーむ。あ。氷を
風車の前に置けばいいか~。動力は魔鉱石にして~……」
「ハロルド様?」
「ぅん。製氷機も作らなきゃね~」
「……ハロルド様」
「うん。決めた。扇風機作ろう」
主人公は暑さに弱いです。