②
「んー。付加はまた次にして、取り敢えず形を作りやすくするために『形状
記憶』……でいっか。……『形状記憶粘土』になぁれ♪」
ぴし。
黒色の砂が一塊の粘土状になる。
(慣れてこられたのかさほど疲れた様子は見せておられないが)
「ハロルド様、一体何を御創りになられるつもりですか」
「ん?」
「真術を使うのはお辞めくださいと申しているのをお忘れか?」
「ん~」
(生返事が欲しい訳ではないのだが)
「アルメィダとガーラクの喧嘩なんだけどね?」
「はぁ」
「今度のさぁ。調停のときにシャスタスルーシュ皇国に採掘権もらって
おいて通商権をアルメィダにやって、ガーラクは優先的に取引できるように
する方向で話すように決めたでしょ?」
「えぇ」
ジークが返事する。
真術を使ったお小言があれだけなのに呆気にとられたけど。
疲れているのかもね?
ま、いいけど。
「採掘権って言っても、最低ランクの負担がないものだし。通商権は向こう
が持ってるからたくさん掘っても売るときはあんまり旨味ないからさ。魔鉱
石の鉱脈を採掘するときに出る鉱石屑を有効利用できないかな~と思って」
もくもくと粘土を弄くる。
狙っているのは小手や小型盾的な物です。
真術を使って全員分を一気に作ることは出来るけど、疲れることが分かって
いるので、見本分だけでいいのだ。
大量生産する分は変形する必要もないので要は魔鉱石で作った防具の試作品
作りである。
「ジーク、手貸して?」
「……」
しぶしぶ、という感じで手を出すジークフリート。
骨ばった大人の手ですね。
うん。
手首にでろり~んと巻き付ける。
冷たかったのか、眉を顰めた表情がなかなかにセクシィです。
中指にかけるようにして手の甲に乗せる。
手首の辺りは可動式にしないとね。
細かい微調整をしつつ、肘までを覆う形にする。
装飾はシンプルに。
「動きにくいとこある?」
「……いぇ」
「そ。これでいいかな?『記憶』」
きぃん。
小手が光る。
「ジーク、ちょっとここに手をおいたままにしてくれる?」
試したいことがあるから。
ジークが手を投げ出したままなのを確認し、徐に細身剣を振り上げる。
「……それを、どうなさるのですか」
非常に嫌そうな表情のジークに、にっこりと微笑みかける。
やだなぁ。
分かりきっているじゃないか。
「こぉする」
がきゃッ!
剣を振り下ろす。
もう少しで小手にあたる、というところで攻撃を吸収した。
「ふむ。効果はたぶん吸収か~。熱を加えるから具体的にどうなるかは分か
らないけど」
何回かやったら壊れるかもしれないし。
耐久実験はさすがにジークからはずしてしないとね。
「もういいよ。『解除』」
元の粘土状に戻してから、ジークの手からどける。
「んー『記憶再生』」
もう一度粘土が光り、小手が出来上がる。
「あとは工房でこれを見本に作ってもらおっと」