⑨
カートが呼んでくれた竜車に乗り込む。
あ、中は結構広いや。
絨毯もふかふかだし。
初めて乗るけど、これなら納得かなぁ。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして?」
「カート、怪我見てやって」
「はい」
「あ、あの、あなたたちは一体……」
混乱しているお姉さんを横目にカートが傷の具合を確認する。
「これならば大丈夫でしょう」
「一応僕の知り合いに見てもらおう。それでいい?お姉さん」
「は、はい」
ガッチガチに固まってる。
おかしいなぁ。
「誰も取って喰わないから安心して?彼は僕の部下でカート。僕はハル。
今日は街に買い物に来てたんだ。お姉さんは?」
「ぶ、か……?」
あ。12~3歳の子どもが60ぐらいの大人を部下って言うから変なのか。
でも本当のことだしなぁ。
「うん。嘘じゃないよ」
「そ、そうでしたか。私はマリー・エルツです。先ほどは危ないところを助
けて頂きありがとうございました」
「大したことはしてないよ。お姉さんは何であそこで絡まれてたの?」
「それは……」
「あ、言いたくないなら別にいいよ?」
「いえ。……少し時間を下さい。そうすればお話しする事も出来ます」
「うん。まぁ、先に治療してもらお」
がらがらがらがら。
がらがらが……!
回っていた車輪の音が消えた。
竜車が離宮正門に到着したらしい。
「カート、歩くの面倒だから中にはいってもらおう?」
怪我してるのに長い距離歩かせるわけには行かないし。
「畏まりました。……少々お待ち下さい」
カートがいったん竜車から降りる。
門兵に説明してくれたらしい。
竜車が再び動き出す。
「あ、あの。一体どちらに……医術院に行かれるのでは……?」
医術院に行く間に門なんてあったかしら?と首を傾げるお姉さんに曖昧に
笑って誤魔化すわけにも行かず。
「僕の家。あ、ちゃんと医師はいるから大丈夫だよ?」
「え?」
「ちょっと、門限あるからさ。医術院寄ると時間ないんだ。ゴメンね?お姉
さん」
「マリーでいいですよ?」
「じゃあ、マリー♪僕のことはハルって呼んでくれる?」
「はい」
「あ。着いたみたいだよ」
開いた扉から飛び降りる。
あ。
カートだ。
先に従者に伝えてくれていたらしく、マリーは抱っこのままで客間へ直行。
目を白黒させてて可愛かった。