③
「お疲れ様でした、ハロルド殿下」
「あ、リーナだ」
ふんわりと微笑む侍女のリーナは蜂蜜色の髪が可愛らしい女の子だ。
「今日は林檎のティーですわ」
飴色のフレーバーティーに蜂蜜をたらして一口飲む。
うん、美味しい。
「カートは?」
「ファレル様ですか?先ほど見えられましたがまだ御仕事中だと伝えました
ら、中庭のほうでお待ちすると言っておいででした」
「ふぅん?」
「それと、珍しいケラソスの葉が手に入ったと仰られて、
少量分けて頂きました」
「けらそす?」
「えぇ。確か東方の国の樹……でしたかしら?その樹に咲く花と葉を乾燥さ
せたものだそうですわ」
「へぇ?」
「葉は茶色で此方のものとあまり変わりませんけれど花は薄ピンク色でとて
も可愛らしい感じでした。後ほどブリーゼ様の許可を頂いておきます」
「……うん」
けらそす……ねぇ。
どんなのか楽しみだな。
「ふぁぁあぁぁ……」
「あら」
ん~眠い。
「やはりお疲れですのね?街に下りられるのは明日からになさったほうがよ
ろしいのでは?」
「んー。大丈夫」
「そう……ですか?」
「うん。それに、仕方ないよ。今忙しい時期だし」
「宰相閣下ももう少し御考え下されば宜しいのに……」
リーナがぶつぶつと文句を言ってる。
珍しいなぁ……。
「んー。そぉだねぇ……」
あ。
駄目だ。
「リィナぁ、少し寝ていい?ジークかカートが来たら起こして~」
「畏まりました」
そのままソファーに足を伸ばすと軽く目を瞑る。
「……ほぅ、これがあの……」
やや興奮気味に確かめる。
希少なものだがようやく手に入った茶葉を目の前にしては無理もないと思っ
て欲しい。
「ぇえ、後数日すれば苗木のほうも手に入るとのことで中庭の方に植えさせ
て頂けないかと宰相閣下に相談しているところです」
仕事を終えてハロルド殿下の居室に向かうと入り口付近でファレル卿が衛士
に殿下の不在を確認しているところだった。そのまま衛士に取次ぎを頼み、居
室の中に入る。
殿下が待ちくたびれておいでだろうと思っていたが過密労働が祟ったのか、
ソファーで仮眠を取られていると侍女にいわれ、起きて頂くまでとりとめの
ない話をしていたのだが。
「ふむ。少し頂いても?」
「勿論です。花は気管支に効くそうですし、解熱、解毒作用があるとか。飲
酒が過ぎた際の二日酔いに効くとも。ケラソスの葉は、胃腸を整え、下痢を
止める効果があるそうです。樹皮は炎症を抑えるという話です。また、とて
も可憐な花が咲くということで有名だとか」
「お茶として楽しむものだと伺ったが、どうやら薬としての効能が高いよう
ですね?……医政局の薬師たちにも研究してもらいたいのですが……」
「まずは苗木が根付くかどうかでしょう。病に弱い種だと聞き及んでおりま
すので……」
「……まずは閣下の許可を待つしかありませんね。……卿の……」
「……ですから……それは…………」
んぁ。
ボソボソボソボソと。
う~る~さ~い~!!
「五月蠅い!」
「まぁ、御目覚めになられましたわ」
ん?
辺りを見回す。
……………………。
うぉぅ。
ジークとカートが不審そうにこっちを見ていた。
起してって言っていたのになぁ。
…………むぅ。
ケラソス=桜です。
効能を調べたら意外とありました。
見るだけでなく香りも食しても楽しめる素敵な樹木ですね。