①
苦しい。
そう、言おうとして、……でてきたのはか細い空気が出す、ヒューという
空気の漏れる音だけ。
再び言葉を発そうとして、声がでないのに気付いた。
何で?
……なんで。
…………ドウシテ?
声がでないの?
出せない?
……何故……。
ならばと、体を動かそうとしたけど、指一本たりとも自由にはならなくて。
空気の通る微かな音。
それだけがまだ生きているという証であるかのように。
誰かに知らせようにも言葉も、体の自由もない状態ではどうすることも出来
なくて。
うっすらと開いた視界から、広い……室内にあるベッドに寝ているのだと分
かった。
おかしい……。
私は、家に帰ってきて自分の部屋で寝ていたはずなのに。
こんなに大きな部屋が私の部屋のはずないし。
まさかまだ寝ているとか?
でも、夢らしくはない。
「あぁ、御目覚めになられましたか、我が君」
不意に、男の声が、した。
まだ姿は見えないけど。
明らかに英語じゃない言葉なのに(英語もほとんど出来ないけど)。
正確には聴いたことのない言葉なのに、理解できるって……。
ぁぁぁ……。
この前呼んだ小説にあったなぁ……。
ま・さ・し・く。
異世界トリップ。
いや。
でも。
まさか、ねぇ?
「如何なさいました?声を聞かせては下さらないのですか?」
出来るものならとうに話しているって。
また、ヒューという音。
……。
ぅう、苦しい。
……うん。
もうね?
この状態の私に話をさせようとしている時点でドS(鬼畜人物)決定です。
「……御薬をお持ちしたのですが、……我が君?」
黒髪に暗灰色の眼を持つ男が躊躇いながらそう告げる。
……。
なんか、もう……ね……。
夢じゃなさそうだよ。
存在感がしっかりある(泣)。
まだ、誘拐の線は捨て切れないけれど。
今の状況に一番当たっていそうなのは……ありえないけど(どこの世界に、
天涯孤独な16歳のか弱い(ここ重要)勤労少女を誘拐する奴がいるというの
か)誘拐されたというパターン。
……お金はないけれど臓器なら使えます、な方向で。
ただし、さっき寝たはずの私の体が指一本動かせなかったり、息をするのも
苦しいほど瀕死の重症状態になっていなければ、だけど。
次に異世界トリップ……なパターンで。
3番目に……知らないうちに死んでいて転生したとか。
うん。
全部この前読んだ小説からの知識だけど。
……とりあえず、誘拐だろうがトリップだろうが転生だろうが状況把握しな
いと。
と、いうか、早く話せる様にならないと、意思疎通が出来ない。
喋れないといろいろ困るし。
腕どころか、指一本動かない状態じゃ筆談は不可だし。
体力回復が第一目標かな……。
主人公の名前が出てこない(笑)