第六章 石室と朽ちた書物の発見
さらに調査を進めるうち、一行はより広い空洞の奥に小さな石室のような空間を発見した。そこには木製の箱が置かれており、蓋は既に朽ちて半分崩れかかっていた。周囲の湿気によって木材が腐食し、金属の留め具だけが錆びついた状態で残っていた。
坂崎博士は慎重に箱を開けた。中には水に濡れてぼろぼろになった書物があり、その文字列は判読困難だったが、アルファベットとオランダ語らしき文章が散見された。
ページをそっと開くと、かろうじて読み取れる部分にこんな記述があった。
「Hier is de mond van de hel... Onze zielen zijn verloren...」 (ここは地獄の入り口…我らの魂は失われた…)
断片的な記述ではあったが、ただでさえ重苦しい洞窟の空気をさらに圧迫するような言葉に、隊員たちの表情は青ざめていった。
「先生、これは一体…」
「おそらく、洞窟に避難したオランダ人の一人が最期に残した記録でしょう。彼らがここで何を体験したのか…」
坂崎博士の声も震えていた。さらにページをめくると、粗い筆跡でこんな文章も記されていた。
「悪魔の声が聞こえる…仲間が一人ずつ消えていく…神よ、我らを救い給え…」
一方、石室の壁際にはアダンの実が乾燥して転がっているのを発見した隊員もいた。どうしてこんな洞窟の奥深くにアダンの実があるのだろうか。海流で運ばれてきたのか、それとも誰かが持ち込んだものなのか。
「アダンの実は島では魔除けとして使われることがありますね」
案内の島民が説明した。「祖父母の時代には、悪霊を払うためにアダンの実を身に着ける習慣がありました」
洞窟の中は潮騒も聞こえないほどの静寂に包まれており、その分、水滴の落ちる音が異常なほど大きく響く。時折、遙か奥から微かな風が吹いてくるような気がし、その風に乗って何かの呻き声のようなものが混じる気がしてならなかった。
「皆さん、少し休憩しましょう」
坂崎博士は隊員たちの疲労を察し、一時的に調査を中断することにした。しかし、石室で発見したものの重要性は明らかだった。これらの遺物は、四百年前にこの洞窟で起こった悲劇の確かな証拠なのである。




