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気象予報センターで働いていたら、有能な先輩に溺愛されました  作者: 双鶴


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第5話 台風接近、戦場と化す予報センター

その夜、予報センターは異様な緊張に包まれていた。


大型台風が、予測よりも早く進路を変えた。

モデルの多くが外れ、現場の判断が求められる状況。


澪はモニターに映る雲の渦を見つめながら、喉が乾くのを感じていた。


(……こんな状況、初めて)


スタッフが慌ただしく走り回り、電話が鳴り続ける。

フロア全体が“戦場”のようだった。


その中で、ただ一人だけ、空気の中心に立つ男がいた。


黒川晴臣。


「白石、こっちだ」


呼ばれた瞬間、澪の心臓が跳ねた。

黒川は複数のモデルを同時に立ち上げ、澪に席を示す。


「このラインの変化、気づいているな」


「……はい。でも、確信が持てなくて」


「迷うな。君の判断は正しい」


まただ。

また、あの言葉。


でも今は、状況が違う。

台風が迫っている。

判断を誤れば、被害が出る。


「黒川さん……本当に、私で大丈夫ですか」


震える声で問うと、黒川は一瞬だけ澪を見た。

深い、静かな目。


「白石。君の“目”は、俺が最も信頼している」


その一言で、胸の奥が熱くなる。


黒川は続けた。


「俺が横にいる。……だから、迷うな」


その瞬間、アラートが鳴り響いた。


《台風の進路が急変》


フロアがざわめく。

スタッフが一斉に動き出す。


黒川は即座に指示を飛ばした。


「白石、解析を続けろ。俺は各部署に連絡する」


「は、はい!」


澪は震える指でデータを追いながら、必死に食らいつく。


(……黒川さんが信じてくれたんだから、私も信じなきゃ)


数分後、澪は異常な風速の変化に気づいた。


「黒川さん! ここ、急に……!」


黒川がすぐに駆け寄る。

肩が触れそうな距離で画面を覗き込む。


「……白石。よく気づいた」


その声は、騒がしいフロアの中でも澪にだけ届いた。


「この変化、他のモデルより早い。君の判断が最優先だ」


「で、でも……!」


「大丈夫だ。俺がついている」


黒川の低い声が、澪の震えを静かに溶かしていく。


***


数十分後。

澪の判断をもとにした進路予測が、最も正確だったことが判明した。


センター長が声を上げる。


「白石くん、よくやった! 君の判断が被害を最小限にした!」


澪は呆然としたまま立ち尽くす。


その横で、黒川が小さく言った。


「……誇れ。君の判断だ」


澪は思わず黒川を見上げた。

彼はいつも通り無表情なのに、どこか柔らかい目をしていた。


「黒川さん……」


「白石」


黒川はほんの一瞬だけ、澪の肩に触れた。

それは、誰にも気づかれないほどの短い、静かな仕草。


「よく、頑張ったな」


その言葉が胸に落ちた瞬間、

澪は初めて、自分の仕事に“誇り”を感じた。


──この夜の台風対応が、

二人の関係を大きく動かすことになるとは、

まだ誰も知らない。


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