第2話 外れた予報と、気づかれない優しさ
翌朝。深夜勤務を終えた澪は、ロッカールームでスマホを開いた。
──外れた予報へのクレームが三件。
胸がきゅっと痛む。
昨夜、黒川に「君の判断は正しい」と言われたのに、やっぱり自信が持てない。
(……私、本当に向いてるのかな)
ロッカーの扉を閉めた瞬間。
「白石」
背後から名前を呼ばれ、澪はびくりと肩を震わせた。
振り返ると、黒川晴臣が立っていた。
朝の光の中でも、彼の存在感は圧倒的だった。
無表情なのに、どこか疲れた目をしている。
「昨夜の件、気にしているのか」
「い、いえ……その……」
否定しようとしたが、声が震えた。
黒川は何も言わず、ただ澪を見つめる。
その視線は、逃げ場を奪うほどまっすぐだった。
「予報は外れることもある。完璧な人間はいない」
淡々とした声。
けれど、その言葉は澪の胸に深く染み込んだ。
「……でも、私の判断で……」
「白石」
黒川が一歩近づく。
距離が近い。息が触れそうなほど。
「君は、よくやっている」
その一言に、澪の喉が詰まった。
涙が出そうになるのを必死にこらえる。
黒川はそれ以上何も言わず、踵を返して去っていった。
残された澪は、胸の奥がじんと熱くなるのを感じていた。
──どうして、あの人は私にだけ、こんなふうに言うんだろう。
***
その日の夕方。
帰ろうと席に戻ると、デスクの上に小さなメモが置かれていた。
《昨夜のモデル、再解析済み。白石の判断が正しかった。
——K》
黒川の筆跡だ。
澪は息を呑んだ。
彼は、わざわざ自分の判断を裏付けるために再解析してくれたのだ。
でも、黒川は何も言わなかった。
ただ、メモだけを残して。
(……どうして、こんなに優しいのに、何も言わないんだろう)
胸が痛いような、温かいような、不思議な感覚が広がっていく。
澪はまだ知らない。
黒川が昨夜、誰よりも早く異常値に気づき、
澪が悩まないようにと、こっそりデータを整えていたことを。
そして、その優しさに気づくのは、まだ少し先の話。




