第18話 抱きしめた理由と、こぼれた言葉
翌日。
澪は朝から落ち着かなかった。
(……黒川さん、“続きは必ず話す”って言ってたけど)
何を言おうとしたのか、
もう分かっている気がする。
でも、怖かった。
期待して、違ったらどうしようと。
***
その日の午後。
センターは珍しく静かだった。
澪が資料をまとめていると、
背後から低い声が落ちた。
「澪」
振り返ると、黒川が立っていた。
いつもより少しだけ緊張した顔。
「……話がある」
胸が跳ねた。
黒川は澪を会議室へ連れていき、
ドアを閉めた。
二人きり。
静寂が落ちる。
黒川はしばらく黙っていた。
言葉を選んでいるようだった。
「……昨日の続きだ」
澪は小さく頷いた。
黒川はゆっくりと澪に近づき、
目を逸らさずに言った。
「……お前が飲み会に行ったと聞いたとき、
胸がざわついた」
澪の心臓が跳ねる。
「誰と話すのか、誰の隣に座るのか……
考えるだけで落ち着かなかった」
黒川は一歩近づいた。
「……迎えに行ったのは、心配だったからだけじゃない」
澪は息を呑んだ。
黒川は澪の手をそっと取った。
「……お前が、他の誰かに笑いかけるのが……嫌だった」
胸が熱くなる。
黒川の声は震えていた。
「……お前が誰かに触れられるのが……耐えられなかった」
澪の目に涙が滲む。
黒川は澪の手を強く握り、
覚悟を決めたように言った。
「澪」
名前を呼ぶ声が、驚くほど優しい。
「……好きだ」
澪は息を呑んだ。
黒川は続けた。
「ずっと……お前のことが、好きだった」
澪の胸が熱くて、苦しくて、嬉しくて、
涙がこぼれた。
黒川は驚いたように目を見開き、
そっと澪の頬に触れた。
「……泣くな」
「だ、だって……」
「泣かせたいわけじゃない」
黒川は澪をそっと抱き寄せた。
強く、でも優しく。
「……お前が好きだ。
誰よりも、ずっと」
澪は黒川の胸に顔を埋め、
震える声で答えた。
「……私も……好きです」
黒川の腕に力がこもった。
「……ありがとう」
その声は、
今までで一番優しかった。
会議室の静けさの中、
二人の影がゆっくりと重なった。
──こうして、二人の想いはようやく言葉になった。




