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雨に響く鈴  作者: 黒森 冬炎


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7/7

七、幼い人質(7)

 七王女チャイレンの座る輿には、幾本もの赤い矢が刺さっていた。山賊の矢は尽きて、蛮刀が簾を突き破る。応戦する護衛隊は、血と汗を流していた。揉み合い倒れ、また起き上がり、彼等は傷口に泥も小石も草もつけながら、必死に主人を護ろうとしていた。


 輿に垂れ下がっていた簾はズタズタだ。護衛が数名投げ飛ばされた。山賊の太い腕が鋭い突きを繰り出した。四方から襲う刃は研ぎ澄まされていて、チャイレンの顔を映した。


(本物の汚れではないな)


 山賊の服や体に付いた泥は、塗りつけたようで不自然だった。


「ハッ!」


 息を強く吐き出して、チャイレンは上に跳ぶ。輿の天蓋を突き破り、空高く舞い上がった。初夏の爽やかな風に黒い紗が揺れる。煌びやかな長衣の裾が翻る。梢がザワザワと葉擦れの音を響かせた。大海竜の角を模った鏢が、風に舞う木の葉のように優雅な軌跡を描く。不規則に敵を襲う鏢は、木の葉の笛に似た歌を奏でた。チャイコンの得意技、龍角(ロンカッ)葉吟(イッヤン)である。


 咄嗟の時こそ影武者の価値は問われるものだ。だが、身替りが決まってから出発までの短い間に身に着くものではない。双子は仲が良く、普段から互いの技を学び合っていたのである。だからこそ、仕草や話し方の癖までもコピーすることが出来たのだ。



「上だっ!」

「小癪な」


 眼下の山賊はかなり減っていた。味方も多く倒れている。盛り上がった肩が後ろに引かれ、数人の山賊が蛮刀を投げ上げてきた。ある者は味方と斬り結び、ある者は鏢を弾き飛ばし、またある者は着地の瞬間を狙って蛮刀を構えていた。


(洗練されている)


 野蛮な立ち回りは見せかけだ。山賊は統率の取れた動きを見せていた。


(ユウ大王国の陣形ではなさそうだが)


 今やバラバラに壊れた輿の上に、チャイレンはふわりと降り立った。鉄納戸(てつなんど)地に金銀の波模様が刺繍された絹の長靴(ちょうか)が真昼の太陽に煌めく。


「仕留めろ!」


 山賊の(かしら)が叫んだ。山賊は一斉に輿の残骸へと駆けて来る。


「させるか!」


 護衛隊も負けてはいない。血と土の混ざった汗を飛ばしながら、山賊どもに飛び掛かった。


「ぐっ!」


 長い帷の黒い紗が一部切り落とされ、チャイレンの腕に深い刀疵を残した。


(おかしい。身体が重い)


 真新しい傷口からの血を流れるままにして、チャイレンは樹々の間へと飛び退った。護刀と鏢だけでは、蛮刀相手の接近戦が難しい。なるべく距離を取りたいところだ。チャイレンは向きをかえながら、右の山賊に肘打ちを入れる。


「うえっ」


 山賊は呻いて、一瞬身体をくの字に曲げた。左の山賊は横蹴りで片付ける。目の前に飛び込んで来た山賊を躱して髭もじゃの顔へと裏拳を沈ませる。チャイレンの脚は思うように運ばない。


(もどかしい)


 追手の刃が背中に迫る。斜面を走るチャイレンは、ボロボロになった帷帽(いぼう)を敵へと投げつけた。

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