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雨に響く鈴  作者: 黒森 冬炎


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5/7

五、幼い人質(5)

「うまく出来たみたいですね」


 双子の兄の姿をしたチャイレンは、にっこりと笑った。


「どうなっておるのだ?」


 王がもう一度訊き、王妃はチャイレンに近づいてまじまじと見た。


「父君様、母君様。あなた方の娘が、どんな加護を受けて生まれて来たのか、ご存知でしょうか?」

「えっ?」

「加護」


 チャイレンは姿を戻して胸を張る。


「大海竜は海の竜なので海に現れます」


 両親は無言で頷いた。


「大海竜の奥方様である白塩竜は山の竜なので、山に現れます」


 両親は揃って目を見開いた。


「白塩竜は唯一の塩竜であり」


 言いながらチャイレンはテーブルに戻った。食卓にある魚のスープを散蓮華で掬って、再び腕の中へと注ぐ。液体はキラキラと光った。


「髪と目に現れる光は透明なのです」


 スープとともに魚の身や野菜が流れ落ちてゆく。光はゆらめき、スープの具は生きた小魚や花、小鳥や貝に姿を変えた。次に、青菜の炒め物を箸で摘んだ。チャイレンは、何も載っていない小皿の上で青菜を箸から離す。皿の上には雪のように白い塩が降り積もってゆく。最後に鮮やかな緑色の野菜が塩の上に着地して、微かに軋む音がした。


「加護の効果は、塩が含まれているすべての物から、人の手では不可能なほど上質な塩を取り出すことと」


 散蓮華を蓮華置きに戻すと、七王女チャイレンはくるりと回って六王子チャイコンに変化した。


「光の反射を利用して、目の錯覚を起こすことです」


 説明を終えると王女は座り、チャイレンの姿に戻っていた。



 ロンワ王と王妃は呼吸を整えてから、質問を始めた。


「なぜ黙っていた?」

「はっきりと気がついたのは、最近のことなのです」

「おや、自分でも判っていなかったの?」

「はい」


 白塩竜は山に現れるため、海に向かって祈りを捧げていた祭司には見えなかった。双子が産まれたのは未明である。起きて山の空を眺めていた国民は誰もいなかった。


「その加護の効果は、自由に発現させられるのか?」

「塩のない物から塩を作ることはできません」

「制限はそれだけ?」

「練習しないと、うまくできません」

「それは少し不便だな」

「鍛練したのですね?」


 チャイレンは頷いた。


「もう失敗しなくなりましたよ!」

「よくやった。褒美をつかわそう」


 王は、背後に控えていた侍従に言いつけて、褒美の品を持って来させた。遠国から伝来した小箱である。黒に見える紫色をしている頑丈な木材が使用されていた。素材も装飾もロンワでは見かけないものであった。表面を覆う彫刻は植物のようであるが、実在するのかどうか解らなかった。模様は、細い線彫りで規則的に並んでいる。


「昔、ロンワの海岸に流れ着いた人物が、祭祀の準備をしていた祭司に救けられた。命を救われた礼として祭司に渡され、その子孫が王に献上したものだ」

「わああ、素敵。ありがとうございます!父君様」


 チャイレンは子供らしく全身で喜びを表した。

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