五、幼い人質(5)
「うまく出来たみたいですね」
双子の兄の姿をしたチャイレンは、にっこりと笑った。
「どうなっておるのだ?」
王がもう一度訊き、王妃はチャイレンに近づいてまじまじと見た。
「父君様、母君様。あなた方の娘が、どんな加護を受けて生まれて来たのか、ご存知でしょうか?」
「えっ?」
「加護」
チャイレンは姿を戻して胸を張る。
「大海竜は海の竜なので海に現れます」
両親は無言で頷いた。
「大海竜の奥方様である白塩竜は山の竜なので、山に現れます」
両親は揃って目を見開いた。
「白塩竜は唯一の塩竜であり」
言いながらチャイレンはテーブルに戻った。食卓にある魚のスープを散蓮華で掬って、再び腕の中へと注ぐ。液体はキラキラと光った。
「髪と目に現れる光は透明なのです」
スープとともに魚の身や野菜が流れ落ちてゆく。光はゆらめき、スープの具は生きた小魚や花、小鳥や貝に姿を変えた。次に、青菜の炒め物を箸で摘んだ。チャイレンは、何も載っていない小皿の上で青菜を箸から離す。皿の上には雪のように白い塩が降り積もってゆく。最後に鮮やかな緑色の野菜が塩の上に着地して、微かに軋む音がした。
「加護の効果は、塩が含まれているすべての物から、人の手では不可能なほど上質な塩を取り出すことと」
散蓮華を蓮華置きに戻すと、七王女チャイレンはくるりと回って六王子チャイコンに変化した。
「光の反射を利用して、目の錯覚を起こすことです」
説明を終えると王女は座り、チャイレンの姿に戻っていた。
ロンワ王と王妃は呼吸を整えてから、質問を始めた。
「なぜ黙っていた?」
「はっきりと気がついたのは、最近のことなのです」
「おや、自分でも判っていなかったの?」
「はい」
白塩竜は山に現れるため、海に向かって祈りを捧げていた祭司には見えなかった。双子が産まれたのは未明である。起きて山の空を眺めていた国民は誰もいなかった。
「その加護の効果は、自由に発現させられるのか?」
「塩のない物から塩を作ることはできません」
「制限はそれだけ?」
「練習しないと、うまくできません」
「それは少し不便だな」
「鍛練したのですね?」
チャイレンは頷いた。
「もう失敗しなくなりましたよ!」
「よくやった。褒美をつかわそう」
王は、背後に控えていた侍従に言いつけて、褒美の品を持って来させた。遠国から伝来した小箱である。黒に見える紫色をしている頑丈な木材が使用されていた。素材も装飾もロンワでは見かけないものであった。表面を覆う彫刻は植物のようであるが、実在するのかどうか解らなかった。模様は、細い線彫りで規則的に並んでいる。
「昔、ロンワの海岸に流れ着いた人物が、祭祀の準備をしていた祭司に救けられた。命を救われた礼として祭司に渡され、その子孫が王に献上したものだ」
「わああ、素敵。ありがとうございます!父君様」
チャイレンは子供らしく全身で喜びを表した。




