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雨に響く鈴  作者: 黒森 冬炎


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四、幼い人質(4)

 夕焼宮の食卓には、海山(うみやま)の幸が並んでいた。西の山脈を奪われたとはいえ、南の山岳地帯では食用に適した植物や肉が手に入る。海は岩礁のある荒海で、漁港は限られている。それでも、魚や貝は獲れた。ただ、旅人を集めるほど珍しいものはなく、交易に有用な逸品も産出しない。だが、国民が充分満足出来るだけの食糧は確保出来ていた。


 食事に箸をつける前に、王は沈んだ顔で口を開いた。


「ユウ大王国への出発はもう延ばせない。だが、チャイコンが目覚める気配がないのだ」


 王妃とチャイレンは居住まいを正した。


「チャイコンとチャイレンはよく似ている」

「陛下!」


 王妃が鋭く叫んだ。


「察しの通り、身替わりを頼みたい」

「無茶です!人質ですよ?厳しく調べられますでしょう?発覚しない筈がありません」

「侍女と侍従を1人ずつ付けて良いことになっている。侍女は医局の者に当たらせるつもりだ。着替えや入浴だけでなく、診察を受ける時にも気付かれる危険があるからな」

「今はともかく、年頃になれば気づかれないほうが不思議です」


 王妃は退かない。発覚すれば、チャイレンの命が危ないだけではなく、戦争の発端になる。約定違反だからだ。


「十年経てば十七です。体つきも変わりますし、声変わりだって致します」

「しない者もおる」

「稀にはございますが」

「ユウ大王国には、女性のように身を飾り粉をはたく男もいるそうだ。誤魔化せないこともなかろう」

「陛下!」


 王妃が勢いよく立ち上がった。その時、7歳の王女チャイレンが口を挟んだ。


「面白そうですね?」

鈴児(レンイ)!遊びでは無いのです。多くの者の命に関わることですよ」


 王妃は七王女を嗜めると、ロンワ王に向かって毅然とした態度をとる。


「いけません、陛下。諦めてください。レンイには大海竜の加護がないのです。目と髪の光もありません」

「外部の者には髪飾りの反射だと思わせているのだから、それは大丈夫だ」


 ロンワの王とその子供達は、毎日必ず髪飾りを付けている。海のような青緑色の宝石を連ね、鉢巻のようにぐるりと頭に巻く飾りだ。入浴時も就寝時も外さない決まりである。


「ふふっ」

「どうした?チャイレン」


 チャイレンは両親に悪戯な笑顔を見せて、椅子からピョンと飛び降りた。


「えっ?どうなっているんだ?」

阿光(アコン)?え?レンイ?どうしたの?」


 両親が戸惑ったのも不思議ではない。床に立つ子供の顔立ちは少し優しくなり、背が心持ち低くなっていたのだ。

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