二、幼い人質(2)
六王子は起きない。
「民間の医師も連れて参れ」
「はい、陛下。かしこまりました」
「出発は延期だ」
「かしこまりました」
ゆとりのある行程が組んであったので、人質と賠償金を運ぶ一団は待機することになった。
「まだ起きぬか」
ロンワ王は、公務の合間に人を遣わしては状況を確認した。寝る前には必ず六王子の寝殿を訪れた。数日が虚しく過ぎ、王も面痩せしたように見える。
「チャイコン」
王は眠ったままの王子を心配そうに見下ろした。寝台の前に置いた椅子に座り、我が子の手を摩っている。肩を落とした背中は、威厳ある王ではなくただの父親のものであった。
「陛下、これ以上出発が遅れますと、約束の期日までに、護衛団がユウ大王国まで辿り着けなくなってしまう恐れがあります。好戦的態度と看做されかねません」
護衛団のリーダーが進言した。深く頭を下げたまま、王の返答を待つ。王は目覚めない息子の顔を眺め、それから静かに目を閉じた。部屋の中は静まりかえっていた。皆が王の指示に素早く従えるように緊張しているのだ。
「侍医を付けて送るか」
目を瞑ったまま、王が言葉を発した。集められた医師たちがより深く頭を下げた。
「原因が分からない状況で、迂闊に動かすわけには参りません」
御殿医が医師たちの意見を代表して表明した。
「しかし、これ以上遅れるわけには」
護衛団のリーダーも見解を述べる。王は目を閉じたまま、眉間に皺を寄せた。しばらくして、大きく息を吸うと、カッと目を見開いた。
「皆退がれ」
一瞬戸惑い顔を見合わせた家臣と医師たちだったが、すぐに六王子の朝焼宮から退出した。
「チャイコンや、必ず治してやるからな」
王は優しく声をかけてから我が子の手を離す。そのまま七王女彩鈴の住む夕焼宮へと向かった。
七王女は六王子の双子の妹である。ただ、大海竜が現れたのは、六王子が生まれた時だけなのだ。王の子供でありながら、海には竜が姿を見せなかった。前代未聞の事態に、王は狼狽え過保護になった。
ロンワの民は、毒や呪術が効きにくい。海竜の加護があるからだ。大海竜の加護を受ける王族ともなれば、全く効かない。ところがチャイレンには、普通の加護しかないのである。
「陛下、まさか」
夕焼宮へと向かう王に従う侍者の顔が青褪めた。王は何も答えず、素早く足を進めていた。




