一、幼い人質(1)
浪花は海に面した小国である。その成立は上古と言われ、海竜の加護を受ける雲族が暮らしていた。西の山脈はこの度の戦で、草原の強国魚大王国に奪われた。南の山岳地帯は国境があやふやであり、山奥の谷間には蠱毒を遣う雪国があると言われている。
ユウ大王国はロンワから、賠償金と土地以外に十年間の不可侵を誓わされた。その保証として、7歳の王子雲彩光が人質に決まった。
「六王子、苦労をかけるが、指名なので仕方がない。わかってくれ」
山を背にした内陸の城で、ロンワの王が、幼い息子に言い聞かせていた。チャイコンは王の第六子で、三男である。この国では数字が生まれた順番で、その後に男なら王子、女なら王女を付けて呼ぶ。
「父君様。ロンワの名に恥じぬよう、立派に勤めて参ります」
7歳の童がキリリと顔を引き締めて答えた。黒くまっすぐな髪と黒い瞳には、時折海の青緑色が揺らめく。大海竜の加護を受けた者だけが纏う、不思議な光だ。大海竜は、他の海竜とは比べものにならない力を持つ神獣であった。ロンワの民は、誰もが海竜の加護を受けている。だが、大海竜の加護は王族しか受けられない。
王族は、岩の多い海辺で安産祈願を行う。王の子供が生まれる時、大海竜が現れる。チャイコンが産声をあげた時にも、大海竜が現れたのだった。
ユウ大王国の文化を学びながら、チャイコンは静かに日々を過ごしていた。そして、ついに旅立ちの朝が訪れた。
「陛下!緊急事態です!」
出発の儀式を待つロンワ王の元に、六王子付きの侍者が駆け込んできた。
「大切な日に、ドタバタと走るなど、なんたるありさまだ。控えよ」
王様は厳かに注意した。
「陛下、六王子殿下が、目覚めないのです!眠っているようにしか見えませんが、どうしても起きません!」
六王子は勤勉である。今まで寝坊などしたことがない。
「なんだと?御殿医を呼べ」
「はい、既に十人が診察をさせていただきました」
「して、いかがしたのだ?」
王の声に緊張が滲む。
「それが、わからないのです」
「なに?」
「どの医師も、見たことも聞いたこともない奇病だとの見たてなのです」
「全ての御殿医を呼べ」
言いながら、王は自ら六王子の住む朝焼宮へと向かった。




