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悪役令嬢たんに幸多からんことを!

作者: 庭の鰐





「エイラ・リリアベル公爵令嬢!私は貴女との婚約をここで破棄する!」


学園長主催のパーティーで、この台詞は吐かれた。

そこで『やっぱりか』と私は確信を得た。

この『世界』が、前世でプレイした乙女ゲームと同じ世界だということを。


異世界転生!

疑念が核心へと変わる。


物語後半。王子ルートに起こるイベント。

それがこの【婚約破棄】

金髪碧眼の王子と、この国には珍しい黒髪の少女が抱き合い、神が特別に創っただろう銀髪の美しい美少女が対面に立っていた。


ちなみにそのメンツに私はいない。


私はというと、

前世は地方の事務員。


今世は詳細は省くとして、

公爵令嬢の取り巻きをしていた。


前世の私は今世の私という存在をゲームで知らない。


つまりモブである。


「貴女が私の想い人である聖女ハルカにした嫌がらせの数々……言い逃れできないと知れ」


「殿下!わたくしはそのようなことなど、全くしておりません!」


「私に口応えするか」


絶望し、けれどどこか縋るような瞳を物語の悪役令嬢ことエイラ・リリアベルは、第二王子アイシュ・クリスティアに向けた。


しかし、王子は長年婚約者としてそばにいた令嬢を忌々しげに見るだけだった。


ぴきぴき。

何の音か?

私が立てた青筋の音だ。


ナニイッテンダコイツ?????


かくも可憐な乙女であるエイラ嬢に口答えだあ???


はぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!?


ゲス野郎のお前の無価値な口には、猿轡がお似合いだってのにか???


お声を聞かせていただいたこと、むしろ感謝すべきだろうが!?



「わた、……わたくしは……」


明らかに向けられた敵意に、悪役令嬢として仕立て上げられたエイラは狼狽する。


えっかわ。可愛すぎる。

弱気エイラたんの破壊力えぐ。


いつも強気で高飛車な高貴にゃんこちゃんが、ぺしょぺしょになってるのレア描写過ぎ。カメラなんで無いの?一眼レフで撮るべきでしょこれ。名のある絵描きはいるけど、流石に一瞬では描けないし絵画みたいなテイストでこられても全然解像度低すぎて萎えそうで嫌なんだけど。どうしたらいい?え?もう瞼の裏にしっかりと焼きつけるしかないの?スチル倉庫的な機能無いわけ?オプションいかせろ??クソシステムか?


「殿下っ!もうやめてください!ずっと婚約者として過ごしてきたエイラ様が可哀想」


お前のせいでこうなったんだけどな馬鹿聖女。


婚約者がいる王子と知っていながら近寄って、その他にも未来の重役候補たちを籠絡させたアバズレが、完璧で最高に美しいエイラ嬢に慈悲だと?

勘違いも甚だしい。やめてくれ。


「ハルカは優しすぎる」

「そんなこと……。私よりアイシュの方が、いつも優くしてくれるでしょ?」


何だこの茶番劇は。

誰がこれを観劇し金銭を出せる?

私か。出したわ金。乙女ゲームだったわこれ。


百歩譲って聖女との婚姻は勝手にしてくれ。

見る目のない王子も、聖女も無価値だ。

でもエイラ嬢を貶めるのは許さん。


「……アイシュ様、婚約は国が決めたものです。国王陛下や王妃陛下はご存知なのですか?」


美しく鈴の音が鳴るような、それでいて強さを感じさせるエイラ嬢の声が響いた。


硬く口を結び、つり目の瞳はさらにキツさを与える様に力が入っている。


けれど、服をぎゅっと掴む手は震えていた。


早く保護したい。

心がボロボロになりながらも、それでも逃げずに立ち向かう気高き令嬢を。


「貴女のような人間性の欠けた婚約者より、分け隔てなく手を伸ばし、傷も心も癒すハルカの方が国母に相応しいに決まっているだろう。誰もがそう思う。故に、父上と母上のお伺いなど不要だ」


は???????

通せよ。伺いを。

何のための決まりごとだよ。


少なくともお前は国王に向いていないことが明白だが、エイラ嬢が国母に向いていない……だと?????

学年首席を在学中全て維持し、繊細で芸術的な魔術制御を得意とするあまり教師陣すら教えを乞うほどで、音楽も馬術も裁縫もダンスも礼儀作法も政治も王妃教育にだって余念が無いエイラ・リリアベル公爵令嬢を???

向いていないと???

むしろ誰が勝てる???


そこの平民出の脳みそ空っぽ聖女に負けると?


「………………」


王子からのあまりにも酷い扱いに、心が折れたのかエイラ嬢は床に座り込んでしまった。


負かしたと思ったのだろう。

王子たちは無言でパーティー会場を去っていった。


私は急いでエイラ嬢の元へと走る。

王子と公爵令嬢と聖女の中に、伯爵令嬢として学生をしている私は身分的に入れなかった。


「大丈夫ですか!?エイラお姉様!休憩室に行きましょう?どうか非力な私に温かいハーブティーを入れさせてくださいませ」


「……シモナ…………わたくしは、嫌がらせなど何もしてません……わよね?」


「お姉様がそんなことするはずありません」


力強く肯定し、立ち上がる手助けをする。


嫌がらせをしていたのは他の攻略候補の婚約者とその取り巻きだ。


エイラ嬢は、聖女に異世界から来たからと自由にしていても、この国の礼儀があるから自重しなさいと忠告したに過ぎない。


それを聞かなかったのは誰だ?


王子と結ばれるために、エイラ嬢が邪魔になったから罪をなすり付けたに過ぎないだろう。


そもそも証拠は?


未来の王妃として品格を問われ、悪い虫がつかないようにと王室から監視されてるエイラ嬢の身の潔白なんて、すぐに証明出来るというのに。


「ドブカス王子が……」


「シモナ?何か言った?……ごめんなさい聞き取れなくて」


「いえ。騒ぎが大きくなっていますから、早くここを出ましょう」


好奇の目に晒されているエイラ嬢を早く避難させなくては。


王子から婚約破棄された公爵令嬢。

しばらくの話題はこれで持ち切りだろう。


あ?なんだお前ら。

この方はそんな不躾に見ていい方では無いぞ。

散れ。

道を空けろ。

邪魔しかできないのか蚤虫共が。

「殺虫剤撒くぞ」

「シモナ……?」

「さぁて、シモナ特製ハーブティー……待っていて下さいませお姉様♡」


◆◆◆◆◆


翌日。

エイラ嬢は学園に来なかった。


あのドブカス塵ゴミ屑王子のせいで。


婚約破棄イベントまでにきちんと確信を持って対処する為に動けばよかった。

そうすればあと卒業まで3ヶ月しかないエイラ嬢の制服姿をもっと見れたかもしれないのに。

豪華絢爛なドレス姿ももちろん麗しいが、学生服の可愛さを捨てることなんてとても出来ない。


「シモナ様は、その……エイラ様のお見舞いに行かれるのですか?」


クラスメイトの1人が声をかけてきた。

私が取り巻きの中で一番エイラ嬢を気にかけていることを知っているからだろう。


貴族たちは探り合いをするのが常だ。


「勿論ですわ。お姉様が心配ですもの」


「アイシュ様もハルカ様もお休みで、何が起こっているのか……何か分かりましたら、教えて下さらないかしら?」


「ええ。噂程度では誤解を生みますから、きちんとしたことが分かりましたらお知らせしますわね」


受け入れてしまった方が相手は気を許すので、表では肯定を示しておく。勿論、情報を得ても裏取りが出来ていないと理由をつけて、何も教える気はないが。


そう。

第二王子も聖女も休みだ。


婚約破棄の件で、謹慎中である。


きちんとした手順を踏まず、

身の潔白が証明されている公爵令嬢との

婚約を破棄したから。


何故、身の潔白が証明されているか。


それは私の存在が大きい。


「シモナ伯爵令嬢、少しお時間宜しいかな?」


生徒と年齢的に近く、白髪の美形で主に女子生徒から人気がある男教師フェリックスから声が掛かる。


「はい大丈夫ですわ。先生」


笑顔で応え、二人で空き教室に入った瞬間、私は自分にかかっていた偽装魔法を解いた。


栗色でふわふわとしたウェーブ。守ってあげたくなるような可愛らしい女の子の見た目から、

黒髪に紅い瞳。長身で鼻筋が通ったきりりとした成人男性の姿になる。

だいぶ詳細は省いたが、これが今世での本来の姿だ。


「シミオン先輩。俺、シモナちゃんの方が好みどストライクなんで、魔法解除しないで欲しいんですけど」


「お前にサービスする必要が無いからこれでいい」


「ちぇー。可愛い見た目と声のわりに、口がすげー悪いとことか最っ高に痺れるのに。じゃあ、まぁ報告しますね」


偽名シモナ、本名シミオン・マラカイト。

私ことシミオンは、王家直属の秘密組織で隊長という役割を与えられている。戦闘も諜報もこなし、それを秘密裏に済ませる。法外なのに国に守られた黒い組織。


「結論から言うと、第二王子の廃嫡、聖女の修道院送りが決まりました。概ね先輩の証言、進言が通った形ですね」


学園へと紛れ込んだ私の仕事内容は、未来の王妃としてエイラ・リリアベルが相応しいか判断材料を集めること。王子以外の男の影がないか調べることだった。


つまり、趣味で観察しながらも、エイラ嬢を監視していたのはこの私なのである。


嫌がらせの数々にはアリバイもあり、逆に真犯人の名を提示した。


第二王子がお熱の聖女が、他の攻略者ともルートを進めており、キスやハグまでしていて王妃としての品位に欠けることも調べはついているのでそれも報告した。


「あとはアイシュ王子の腹違いの兄。前王妃の忘れ形見である第1王子のジェダイト様を呼び戻す」


「森の奥に籠ってるあの王子を?もしかして、王位を継がせる気ですか?荒れません?第3王子のセダム様も居ますし、現王妃陛下が許しますかね?」


「セダム様はまだ5歳だ。なら歳の近いジェダイト様の方がエイラ嬢に相応しい」


「ん?あれ?俺ら王家直属なのに公爵令嬢に肩入れしてません?」


「女神のような彼女こそ国母に相応しい……むしろ王家は席を全て1席残らず開けるべきだ。玉座こそエイラ嬢には……」


「ストップ!!ここからの先輩の語りいつも長いんでストップで!!」


「いや、この国にこだわることは無いのか。第1王子がダメだったら第二王子のように始末すればいいし……他国でエイラ嬢に相応しい王子か公爵令息を探すのも手ではある。しかしそれだと私がお役に立てない。近くで見守ることも難しくなるかもしれない……」


「聞いてねー。つか職権乱用すぎますよ先輩」


「は???エイラ嬢に幸多からんことを祈るのは人類の義務だが??」


「主語デカ」


その後、男として自分がエイラ嬢を幸せにする選択肢はないのかと問われたが、前世の記憶を取り戻して人格の割合が前世強めになって心が女なことと、彼女を幸せにするには生活水準を下げないよう身分が高い方がいいであろうこと、オタクとして自分が推しとどうこうなりたいわけではないことを、理由を隠しつつ遠回しに伝えた。


「さてと、そろそろ時間だ。俺はエイラ嬢の見舞いに行く」


「学園の馬車使います?その方が早いですよ」


帰りの時間は、家から迎えに来た馬車が混むので、裏口の利用が許可されている学園の馬車の利用は有難い。

しかしながら、それは危うい。


「生徒が軽々しく使えないだろ。怪しい動きをするわけにはいかない」


「生徒思いの優しい先生である俺が、プリントを届けに親しい友人を連れていく。これならそこまで怪しく見られないと思います」


なるほど。それなら大丈夫そうだ。

後輩の意見を聞き入れ頷く。


「よし。シモナちゃんとの放課後デート決定♡」


「お前こそ職権乱用じゃないか」


呆れ顔で異常者を見るが心臓に毛が生えた後輩は、動じず部屋を出ていき馬車の手配をしていた。


気持ち切り替えていくことにする。


そう私服エイラ嬢かネグリジェエイラ嬢が見られるチャンスがそこにはある。

自国または他国に住むエイラ嬢に相応しい相手を頭の中でリストアップしながら、偽装魔法を施し伯爵令嬢の姿になる。


「待っていて下さいね。邪魔者は排除しましたし、必ずお姉様に相応しい相手を探しますから」


どうか、

ゲームで不遇だった推しの悪役令嬢に

幸多からんことを!


全人類の義務(推し活)を果たすべく、帰り支度をする為に私(強火担)は教室へと急いで向かった。


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