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晩年こそ本番。42歳会社員、喋る猫と現代ダンジョン攻略──ここからが本番だ  作者: 七乃白 志優
第六章:仮面の告発者

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069話『ぷにぷにな最強装備、甘い癒やしの味』

そして僕たちは城を出て、自宅のリビングへ戻る。


もちろん、昨夜の宴の名残は、そのまま。


ディアが指先でテーブルを示した。


「スーラ。お願い。あの辺、片付けて」


スーラは従順にテーブルへ移動し、紙容器やゴミを“溶かして吸収”しながら次々と片付けていく。


「……進化してスキル山盛りなのに、初仕事が清掃って……いいのかな」


「夕食のときも、手伝ってね?」


「定着させる気、あるよね」


ディアは涼しい顔で、さらっと言った。


「便利なのは、悪いことじゃないわ」


(反論できない)


時計を見る。

時刻は14時過ぎ。午後にはまだ時間がある。


「秀人、今日このあとどうするの?」


「……近場の小型ゲートかな。軽めに回って、スーラの実戦テストも兼ねる」


「……いいんじゃない。さっさと行こ」


「……(ぷるっ)」


スーラが、僕の腕に巻きついて“スライムガントレット”状態になる。

ディアはミニチュアでふわりと浮き、コユキは妙にやる気だ。


ゲートに入って数分。

蛇みたいな体に炎をまとった下級モンスターが現れた。


「来る――火、吐く!」


火炎が迫る。

けれど。


「……熱くない」


腕のスーラが、火炎を吸い込むように飲み込み、余波すら残さない。


(これが五式吸収(エナジー・イーター)……)


熱だけじゃない。

電気も光も、運動も。

エネルギーそのものを吸えるのは、冗談みたいに強い。


戦闘中。

腕のスーラから、細い“紐”みたいなスライムが伸びた。


先端が野球ボールくらいに膨らむ。


「……これを投げろ、ってこと?」


「(ぷるっ)」


イエスの振動。


僕はその先端を掴み、モンスターの群れへ向かって投げた。


ボールの先端は空中で膨張し――

一瞬で投網みたいに広がった。


「……おおっ」


網がモンスターを覆い、触れた瞬間、音もなく溶けていく。


捕獲じゃない。

捕食だ。


「……今の、なに」


コユキがぽかんと呟く。


「投げネット型・溶解仕様……ってことにしておこう」


「言い方が雑すぎる!」


「コユキの“もふもふ火力”も、だいぶ規格外だけどね」


「……その呼び方、やめて。恥ずかしい」


ディアが、少し目を細めた。


「単純な戦闘面だけなら……成長次第で、いずれ私の域に触れるかもしれないわね」


「……勘弁して。僕の装備だけ、常識から置いていかれる」


結局、この日の小型ゲートは13階までストレートに攻略した。

スーラは“補助”という枠を、軽く踏み越えている。


帰り道、僕は腕のぷにぷにを撫でながら、ぽつりと言う。


「……スーラ、今うちのエースかもしれない」


スーラが、照れたみたいにぷるぷる揺れた。


帰宅して、シャワーで汗を流す。

バスタオルで髪を拭きながらリビングへ戻ると、キッチンからいい匂いがした。


「もうすぐできるわよ」


エプロン姿のディアがフライパンを振るっている。

その脇でスーラが、野菜くずや不要物を触れるだけで吸収して片付けていた。


「……お前、ほんと万能だな」


「あ、スーラ。そこ、ありがと」


「……(ぷるっ)」


食卓には、チキンステーキにサラダ、温野菜、スープ。

見た目にも満足度が高い。


……そして事件は、その後だった。


ディアが、にこっと笑う。


「ふふ。今日は特別なデザートがあるの」


運ばれてきたのは、カラフルなゼリーが入ったグラスの皿。

赤、黄、緑、青。光を反射してきらめいている。


「デパ地下の続き?」


「違うわ。スーラの“体の一部”よ」


「……え?」


「新スキル、滋養膠片(ゼリー・セパレート)偽色変態(カメレオ・スキン)の応用。美味しくて栄養満点の“スライムゼリー”」


「……食べていいの、それ」


横でコユキが、もうスプーンを構えている。


「いただきます!」


僕も半信半疑で口に入れた。


──ぷるん。

やさしい甘さ。柑橘の香り。

そして、普通にうまい。


「……え、うま……店で出せるやつじゃない?」


「ゼリー専門店できるよ!?健康的で最強!」


当のスーラは、誇らしげにぷるぷる揺れていた。


(どこまで進化するんだよ……)


夕食もデザートも終えて、僕はソファに寝転がり、ニュースを流し見する。

“国際会議が調整中”だの、“帰還者の社会適応”だの。

目新しい話題はない。


(……癒し、欲しいな)


スマホを取り出して、いつもの動画を再生する。


──『みみモン日記』。

うさぎ型モンスター“もっちん”と飼い主の“ナナ”がのんびり暮らす、帰還者界の癒し枠の筆頭。


画面の中で、もっちんが洗面器の水をひっくり返され、耳付きの風呂桶みたいな丸い姿に変形。

ナナが大慌てでタオルを投げている。


「……はは。相変わらず、平和なシュールさだ」


ひとりでニヤけていたら。


「……秀人。あたしも癒し枠のはずなんだけど?」


「今日は一日一緒にいたのに、最後に見ているのがそれって……どうなのかしら」


振り向けば、ソファの肘掛けでジト目のコユキ。

その隣で腕組みしているミニチュアのディア。


二人とも、無言の圧つき。諦め顔。


「……ごめん」


(てか昨日――“他の女性も頭ごなしに否定しない”って言ってた)


「……ディア。昨日ああ言ってたのに、その顔はずるい」


「許すのと、平気は別よ」


「ほらね」


コユキが鼻を鳴らす。


「……でも」ディアが小さく言う。


「私も成長するのよ。……だから“隠さない”なら、ちゃんと受け止める」


「了解。じゃあ今日は――動画より、目の前の癒し枠を優先します」


「最初からそれ!」


「ふふ。よろしい」


僕はスマホをそっと伏せて、天井を見上げた。


(……癒しって、たまに重い)


こうして、ぷにぷにとジト目に囲まれながら――

スライムと猫と姫に見守られて。

僕の“スライム成分多め”な一日が、静かに終わった。


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