069話『ぷにぷにな最強装備、甘い癒やしの味』
そして僕たちは城を出て、自宅のリビングへ戻る。
もちろん、昨夜の宴の名残は、そのまま。
ディアが指先でテーブルを示した。
「スーラ。お願い。あの辺、片付けて」
スーラは従順にテーブルへ移動し、紙容器やゴミを“溶かして吸収”しながら次々と片付けていく。
「……進化してスキル山盛りなのに、初仕事が清掃って……いいのかな」
「夕食のときも、手伝ってね?」
「定着させる気、あるよね」
ディアは涼しい顔で、さらっと言った。
「便利なのは、悪いことじゃないわ」
(反論できない)
時計を見る。
時刻は14時過ぎ。午後にはまだ時間がある。
「秀人、今日このあとどうするの?」
「……近場の小型ゲートかな。軽めに回って、スーラの実戦テストも兼ねる」
「……いいんじゃない。さっさと行こ」
「……(ぷるっ)」
スーラが、僕の腕に巻きついて“スライムガントレット”状態になる。
ディアはミニチュアでふわりと浮き、コユキは妙にやる気だ。
ゲートに入って数分。
蛇みたいな体に炎をまとった下級モンスターが現れた。
「来る――火、吐く!」
火炎が迫る。
けれど。
「……熱くない」
腕のスーラが、火炎を吸い込むように飲み込み、余波すら残さない。
(これが五式吸収……)
熱だけじゃない。
電気も光も、運動も。
エネルギーそのものを吸えるのは、冗談みたいに強い。
戦闘中。
腕のスーラから、細い“紐”みたいなスライムが伸びた。
先端が野球ボールくらいに膨らむ。
「……これを投げろ、ってこと?」
「(ぷるっ)」
イエスの振動。
僕はその先端を掴み、モンスターの群れへ向かって投げた。
ボールの先端は空中で膨張し――
一瞬で投網みたいに広がった。
「……おおっ」
網がモンスターを覆い、触れた瞬間、音もなく溶けていく。
捕獲じゃない。
捕食だ。
「……今の、なに」
コユキがぽかんと呟く。
「投げネット型・溶解仕様……ってことにしておこう」
「言い方が雑すぎる!」
「コユキの“もふもふ火力”も、だいぶ規格外だけどね」
「……その呼び方、やめて。恥ずかしい」
ディアが、少し目を細めた。
「単純な戦闘面だけなら……成長次第で、いずれ私の域に触れるかもしれないわね」
「……勘弁して。僕の装備だけ、常識から置いていかれる」
結局、この日の小型ゲートは13階までストレートに攻略した。
スーラは“補助”という枠を、軽く踏み越えている。
帰り道、僕は腕のぷにぷにを撫でながら、ぽつりと言う。
「……スーラ、今うちのエースかもしれない」
スーラが、照れたみたいにぷるぷる揺れた。
帰宅して、シャワーで汗を流す。
バスタオルで髪を拭きながらリビングへ戻ると、キッチンからいい匂いがした。
「もうすぐできるわよ」
エプロン姿のディアがフライパンを振るっている。
その脇でスーラが、野菜くずや不要物を触れるだけで吸収して片付けていた。
「……お前、ほんと万能だな」
「あ、スーラ。そこ、ありがと」
「……(ぷるっ)」
食卓には、チキンステーキにサラダ、温野菜、スープ。
見た目にも満足度が高い。
……そして事件は、その後だった。
ディアが、にこっと笑う。
「ふふ。今日は特別なデザートがあるの」
運ばれてきたのは、カラフルなゼリーが入ったグラスの皿。
赤、黄、緑、青。光を反射してきらめいている。
「デパ地下の続き?」
「違うわ。スーラの“体の一部”よ」
「……え?」
「新スキル、滋養膠片と偽色変態の応用。美味しくて栄養満点の“スライムゼリー”」
「……食べていいの、それ」
横でコユキが、もうスプーンを構えている。
「いただきます!」
僕も半信半疑で口に入れた。
──ぷるん。
やさしい甘さ。柑橘の香り。
そして、普通にうまい。
「……え、うま……店で出せるやつじゃない?」
「ゼリー専門店できるよ!?健康的で最強!」
当のスーラは、誇らしげにぷるぷる揺れていた。
(どこまで進化するんだよ……)
夕食もデザートも終えて、僕はソファに寝転がり、ニュースを流し見する。
“国際会議が調整中”だの、“帰還者の社会適応”だの。
目新しい話題はない。
(……癒し、欲しいな)
スマホを取り出して、いつもの動画を再生する。
──『みみモン日記』。
うさぎ型モンスター“もっちん”と飼い主の“ナナ”がのんびり暮らす、帰還者界の癒し枠の筆頭。
画面の中で、もっちんが洗面器の水をひっくり返され、耳付きの風呂桶みたいな丸い姿に変形。
ナナが大慌てでタオルを投げている。
「……はは。相変わらず、平和なシュールさだ」
ひとりでニヤけていたら。
「……秀人。あたしも癒し枠のはずなんだけど?」
「今日は一日一緒にいたのに、最後に見ているのがそれって……どうなのかしら」
振り向けば、ソファの肘掛けでジト目のコユキ。
その隣で腕組みしているミニチュアのディア。
二人とも、無言の圧つき。諦め顔。
「……ごめん」
(てか昨日――“他の女性も頭ごなしに否定しない”って言ってた)
「……ディア。昨日ああ言ってたのに、その顔はずるい」
「許すのと、平気は別よ」
「ほらね」
コユキが鼻を鳴らす。
「……でも」ディアが小さく言う。
「私も成長するのよ。……だから“隠さない”なら、ちゃんと受け止める」
「了解。じゃあ今日は――動画より、目の前の癒し枠を優先します」
「最初からそれ!」
「ふふ。よろしい」
僕はスマホをそっと伏せて、天井を見上げた。
(……癒しって、たまに重い)
こうして、ぷにぷにとジト目に囲まれながら――
スライムと猫と姫に見守られて。
僕の“スライム成分多め”な一日が、静かに終わった。




