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晩年こそ本番。42歳会社員、喋る猫と現代ダンジョン攻略──ここからが本番だ  作者: 七乃白 志優
第七章:守られる檻、ほどける決断

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106話『サムネは大事』

電車を降りて、担当の小型ゲートへ向かった。


ゲートの中は、無人。

映るのは、僕とモンスターだけでいい。


ディアはミニサイズのまま、スマホを両手で抱えている。撮影係。

コユキとスーラは影の中。――映らないようにしてある。


「全身映すけど、いい?」


「いい。黒猫仮面と黒ずくめなら、誰だか分からないはず」


無地の黒い服。黒いズボン。肌も出さない。

靴もどこでも売っている靴。

黒猫の仮面を付けた時点で、表情も消える。


「じゃ、テスト。……三、二、一」


ディアが小さく指でカウントする。

影の中から、コユキが楽しそうに口を挟んだ。


『はい、撮影開始。――主役、入って』


「急に監督ぶるな」


『監督はボク』


16階層。

――今日は“攻略”じゃない。“動画”を撮りに来た日だ。


右手に、黒を呼ぶ。

黒想鋳具アーマメント・フォージ


掌の上に、黒い棒が形になる。

金属じゃないのに硬質で、軽いのに重心がぶれない。握ると、手に馴染む。


『……よし』


『いいね。その“出すとこ”もう一回。今の、ちょっと速い』


「撮り直しかよ」


『撮り直し』


「了解」


もう一度、黒を呼ぶ。

棒が生まれる瞬間――それだけで、画が締まる。


『はいオッケー。じゃ、次。モンスター来た。右から二体。』


コユキの声が、楽しげに早口になる。

まるで現場のインカムだ。


影が伸びる。

空間斬糸(スペース・スレッド)


糸じゃない。空間に一瞬だけ走る、見えない刃の“線”。


右の一体が動く前に、身体が分かれるみたいに崩れた。

左の一体が遅れて気づく。その“気づいた顔”のまま、次の線で止まる。


『はい、カット!今の、完璧。無駄ゼロ。』


「カットって言うな」


『言いたい』


ディアがスマホ越しに頷く。


「今の、撮れてる。……すごくそれっぽい」


『うんうん。いいの撮れた、次』


コユキが、得意げにまとめる。

僕は苦笑して、次へ向かった。


17階層。

ボス。大きい。派手。

派手だから、やることは逆に少ない。


「ディア、距離。ここから全身で」


「了解。……はい、三、二、一」


ボスの動きが跳ねた瞬間だけ、刃の線を通す。


空間斬糸(スペース・スレッド)

一撃。

“切った”というより、“結論だけ置いた”みたいな終わり方。


倒れる。

派手に倒れる――その派手さが、今日はちょうどいい。


『はい、カット!今の、ボスの倒れ方が映画。』


「映画って」


『映画だよ。ほら、次は“決めポーズ”』


「いらないだろ」


『いる。サムネ用』


「……真面目にやれ」


『真面目。サムネ大事』


ディアが肩を震わせて笑ってる。

ミニサイズなのに、撮影班の顔をしている。


僕は黒い棒を肩に担いで、一秒だけ止まった。

仮面のせいで表情はない。

だから、姿勢だけで“黒猫仮面”になる。


「……はい、終わり」


「いいわ。撮れた。十分」


『撤収!帰る!編集はユキ丸にお願いする』


「勝手に役割を決めるな」


『決めた方が早い』


確かにそういうところが、腹立つくらい仕事ができる。


僕は棒を消して、仮面を――いつものカードへ戻す。


今日は二階層で終わり。深追いはしない。


“証明”のための一歩目は――これでいい。


帰宅。


シャワーで汗を流して、夕食。

ディアの料理は相変わらず“現実に戻す力”が強い。


食後。

ユキ丸が、ちょこんと帽子を外す。

ふわり、と空間に編集画面が浮いた。

タイムライン、カット割り、音量の波形。……見慣れないのに、やたら“それっぽい”。


「……編集、もう終わったのか?」


返事の代わりに、ユキ丸の目のライトが一度だけ瞬く。

再生。


「……プロが作ったみたいになってるんだけど」


「当たり前」


コユキが、得意げに言い切る。


「ユキ丸、ボクが育てた」


「育てたって言うな。……いや、育ってるわこれ」


ディアが小さく頷いた。


「余計な情報がない。見せたいものだけ残ってる。いい編集ね」


スーラが、テーブルの端でぷるん、と揺れる。

“すごい”の合図みたいで、ちょっと笑ってしまった。


僕はホログラムの画面をもう一度見上げる。

ホログラムに“慣れかけてる”自分がいて、少しだけ怖い。


「このあとSNSに動画を上げる。……で、今日はそれ以上は動かない」


「慎重」


「慎重にしないと、足がつく」


コユキが頷いて、今度は真面目な目になった。


「で、次は?」


僕は少し考えてから、言葉を整える。


「次の準備だ。——“黒猫仮面の姿を見たことがある人”。それと、各国の帰還者関連の政府組織、チーム、有名な個人。まずはピックアップする」


コユキが、首を傾げる。


「フォローは?」


「まだしない。先に根回しする」


「了解」


スーラが、ぷるん、とテーブルの端で揺れた。

“今日はここまで”の合図みたいに見える。


僕は立ち上がると、ユキ丸が画面を消した。


「よし。今日は終わり」


明日は、久しぶりのフル出社だ。

しかも夜は、上司と飯――伝えるべきことがある。


逃げ場がない、というより。

逃げないと決めた日の予定表みたいで、少しだけ胃が重い。


(退職代行利用の気持ちが少しわかる……)


(でも、だからこそだ。きちんと自分の言葉で言いたい。)


寝る前、コユキが当たり前みたいに言った。


「明日も進めるよ。レグリスとユキ丸が働く」


ユキ丸が敬礼みたいな動きをして、ライトが一度だけ瞬いた。


「……下僕化が完成してるな」


ディアが肩をすくめる。


「教育って、怖いわね」


僕は苦笑して、リビングの電気を消した。


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