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第一章 記憶の断片 #1

 カツン、カツン、と靴音がアスファルトに響いていた。夕方の通学路。赤く染まった空の下、澪はスマートフォンの画面から目を離さずに歩いていた。今日も特に変わったことはなかった――そう、ほんの数分前までは。


 その瞬間は、唐突に訪れた。


 ブレーキ音。叫び声。体が空を舞う感覚。目の前に広がったのは、深い闇。


 (……死んだの?)


 けれど、痛みも冷たさもなかった。代わりに澪の意識は、どこか遠くて静かな場所に落ちていった。


     ***


 気づけば、澪は光の中に立っていた。


 どこまでも白く、静かな空間。天井も地面もなく、まるで重力さえ失われたような奇妙な浮遊感。周囲には誰もいない。


 「……ここは、どこ?」


 声は自分のものなのに、どこか他人のように響いた。


 そのとき、不意に現れた人物がいた。


 白銀の髪を肩まで垂らし、性別すら判別できない中性的な顔立ちの人物。純白の衣を纏い、まっすぐこちらを見ていた。


 「ようこそ、澪。魂の中継地へ」


 「……あなた、誰?」


 「私はノエル。君の魂の記録を管理する者。いま君の肉体は、生と死の狭間にある」


 ノエルはゆっくりと歩み寄り、澪の額に指を添えた。


 「思い出して。君は『001番』――この宇宙で最初に生まれた魂。だからこそ、ここに来る資格がある」


 その瞬間、澪の意識にざわりと何かが流れ込んできた。


 焼けるような空。知らない星の空気。青く輝く湖。言葉も文化も違う無数の記憶が、嵐のように澪の中を駆け巡る。


 (なに……これ、全部……わたし?)


 けれどその嵐はあまりに激しく、澪の意識は再び闇へと沈んでいった。


     ***


 病院の天井。機械の音。ぼやけた視界の中で、誰かの泣き声が聞こえた。


 「……澪っ!」


 母の声だった。澪はゆっくりとまぶたを開け、つぶやいた。


 「……宇宙の、記憶が……」


 母は涙を流しながら澪の手を握るが、意味を理解できていない様子だった。


 けれど澪の中には、確かな違和感が残っていた。


 あの光の中で出会った人物、ノエル。


 そして――自分が、「誰か」であるという感覚。

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