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第6話「学校に響く音」

 入学式当日。


 俺は意外と緊張しなかった。しばらく学校に行っていなかったからか、懐かしい雰囲気だなと思う気持ちの方が勝っていた。


 この学校は1学年1クラス30人前後と言う超少人数。ふむ、全校生徒98人は伊達じゃないな。中学の頃は全校生徒1000人越えで、卒業式まで知らない同級生がいるのもざらだった。まあ、俺は不登校で卒業式出てないんだけど。やっぱり人が少ない方が落ち着くな。・・・だが、1クラスと言うことはアイツもアイツも、あの子も同じクラスって事だ。うーん、胃が痛いな。

 

そんな事を考えていると、入学式はあっという間に終わった。




 教室に移動するや否や担任が来た。先日寮に宿直していた飛澤先生だ。


「え〜、改めてだが、入学おめでとう。この1年この組を受け持つ飛澤 雄介だ。担当教科は現代文と古典。これからよろしく。」


 この人が担任か。ザ・体育会系でもなさそうだし、第一印象も悪くなかったので、一先ずは安心だ。


「あー‼︎この前寮に来た先生だ‼︎よろしく、トビー‼︎」


 安堵も束の間、香鳥のバカがいきなりぶっ込んできた。担任に対して、いきなりあだ名&タメ口とは。ぶっ飛びすぎてるだろ。


「おいおい・・・トビーって。せめて”先生”は付けてくれ。」


 いや、あだ名はええんかい。


「早速だが一人一人自己紹介してもらおう。」


 自己紹介か。朝の様子を見る感じ、島内出身の生徒はみんな知り合いで、みんな幼馴染といったみたいだ。これ、全員自己紹介する意味はあるのだろうか。そう思っているうちにも、自己紹介はどんどん進んでいく。


杜茂 侑太(もりしげ ゆうた)だ。趣味とかは特に無え。」


 うお、見るからにオラオラ系・・・ちょっと怖いな。


「拙者、 石庭 明也( せきてい あきなり)。趣味は日焼けをするスポーツ。」


 アウトドアが趣味ってことかな?


鳥海 穂乃香(とりうみほのか)です。趣味はマリンスポーツ全般。あと、姉がこの春からカフェを経営しています‼︎みんな、休日は遊びに来てね‼︎」


 おお、なんかコミュ力の塊みたいなキラキラ女子‼︎


米田 陸(よねだりく)です。好きな事は新しい言葉を探し、知的好奇心を満たす事。知的好奇心とは人間の欲である。」


 インテリ系かな?かけているメガネが光っているように見えるな。


「次、風切君」


 自分の名前が呼ばれ、咄嗟に反応してしまった。


「あ、はい‼︎えーっと、風切翔太郎・・・です。東京から来ました。好きなことは・・・海を眺める事です。」


 もちろん嘘である。この場で「アイドルアニメが大好きです‼︎」なんて言ってみろ。100%明日からいじめられっ子コースだ。平穏が1番。何もしない、目立たないで行こう。


 そうこうしているうちに、チャイムが鳴り響いた。


「HRと自己紹介は以上。明日からは、しばらくオリエンテーションが続くのでそのつもりでいるように。」


 初日は午前中で終わった。この後、部活の見学やら学校の探索やら、自由との事だが、俺は寮へ帰りたい。そう思って帰ろうとした矢先、花村が声をかけて来た。


「翔太郎、お疲れ様。ふふっ、相当疲れたようだね。」


「ああ、久しぶりの学校でなんか疲れたよ。やっぱ1年半以上もブランクがあるとな・・・」


「ん?一年半?」


 あ、やっべ。そういえば不登校だったこと、言ってなかったな。


「そうか、それは疲れただろう。そんな中で誘うのもだけど、これから校内を散策しないかい?」


 あれ?なんか気まずい空気になってないぞ?なんでだろう。


「お、おう‼︎せっかくだし見て回るか‼︎」


 動揺は隠しきれなかったが、俺は花村と校内を回ることにした。




 校内は至って普通だった。独自のカリキュラムがある学校と聞いていたから、独自の施設があったりするのかなと思っていたが、まあそんなものはマンガや小説の世界だろう。職員室、理科室、音楽室、体育館、P Cルームなど。中学には無かった自販機が校内にあったのは少し感動した。


 俺達は校内を全て見て周り、グラウンドの方へと移動した。グラウンドはかなり広く、既に野球部が練習を始めていた。


「そ、そういえば、この学校ってどんな部活があったっけ・・・」


 俺はその辺りの情報をすっ飛ばしてこの学校に来た。正直、運動も苦手で芸術などの才能も無いから、部活に入るつもりがなかった。


「確か運動部は野球部、バレー部、柔道部。文化部はボランティア部だったかな?翔太郎はどこかに入るのかい?」


 花村が俺に聞いてきた。


「いや・・・特には。花村は?」


「俺は強いていえばボランティア部かな?」


 花村が爽やかに答えた。


 前々から気になっていたが、自分以外の島外生はどういった目的でこの島を選んだのだろうか。


「な、なあ。いきなりだけど、なんでこの学校を選んだ?正直、俺は地元の学校に行くのが嫌で、逃げるようにこの学校を選んだ。けど花村も香鳥も、他の二人もそうには見えないし・・・」


 俺は、恐る恐る花村に聞いてみる。


「そうだね、己を知るためかな?新之助や竜みたいに大それた目標とか野望があって来たわけじゃないけど、この3年間自分が生まれた場所を出て、自分のやりたい事を探してみたいなって思ってね。」


 うわぁ、俺からみたら十分大それた理由だわ。てか、香鳥や月影と、もうそんなことまで話せる中なの?え、いつの間に?俺ぼっち確定?


「そ、そうなんだ・・・なんかすごいな。」


「翔太郎は、これからどうしたい?何をやってみたい?」


「えっ・・・?」


 俺は返答に困った。自分が今求めているものを見透かされたような気がしたから。そして、これまでやりたい事なんか微塵もなかったからだ。


「どう、だろう。わからないかな?ハハッ・・・」


 バツが悪そうに答える。


「そうか。まあ高校生活ははじまったばかりだからね。俺“も”ゆっくり探してみようと思っているよ。」


 そう言って、また花村は微笑む。


花村とそんなやり取りをしていると、前方から女子生徒の影が見えた。

うげ、倉春さんだ。ここは上手くスルーして・・・


「やあ!幸希!!奇遇だね!!」


 おい!!花村ああああああ!!声掛けんな!!おいおいおいおい!?やばいな、未だ気まずくて離せてないんだよ!!


「あっ!花村くん!!・・・・と、風切くん。ここで何してるの?」


「翔太郎と校内を色々見て回っていたんだ。幸希はここで何をしているんだい?」


「私も校内を見て回ってたんだ!そういえば花村くんは入る部活決まった?」


楽しそうに話す二人。うーん!気まずい。俺もう帰って良いかな!?


「そういえばさっき翔太郎と"この学校でやりたい事”について話していたんだ。幸希は何かあるかい?」


会話に入れない俺を気遣ったのか、花村がさっきの話題について触れてきた。


俺はチラッと倉春さんの方を見た。その瞬間、背筋が凍った。


ほんの一瞬、倉春さんが悍ましい表情になった。普段の可愛らしい顔つきからは考えられない、何かに対する憎悪を募らせた表情だった。


「んー今はよくわかんないかな。じゃあ私はこれで!!またね、花村くん!!」


恐怖も束の間、倉春さんは、普段通りの愛想の良い表情に戻り、俺たちにこう言い放って去っていた。


「ねえ、翔太郎。」


花村が口を開き、俺は一瞬ビクッとなった。


「・・・いや、何でもない。色々付き合わせてすまなかったね。今日は寮に戻ろうか。」


どうやら花村も何かを感じ取ったらしい。だが深くは言及はしなかった。


 俺達はグラウンドを後にして、寮に戻った。




「やりたい事・・・か。」


 自室で俺は花村の言葉を思い出す。ずっと見ないようにしていたが、この年齢なると向き合わざるおえない。

 これまで通り、ずっとアイラブとマルスちゃんだけを追っていたい。それ以外、何もしたくない。


(今のお前は、胸を張って推しに貢献できると言えるのか?将来もっと稼いで貢いだ方が、推しのためになるんじゃないのか?)


 親父の言葉を思い出す。頑張れば稼いだお金を全部推しに使うことはできる。でも、”胸を張って”という部分がどうも引っかかる。


「俺は、本当はどうしたいのだろうか。」


 いや、既にわかっている。わかっているけど、無理だと思う。


「俺は、この学校で、何をやりたいのだろうか」


 できるわけがない、俺の願いは、声は未来に届かない。これまでもそうだったからだ。

 俺の音はいつも響かない。届かない。すぐに消えて無くなってしまう。


 それと、倉春さんのあの"表情"。まるで・・・いや、多分気のせいだろう。




 俺は、入学初日から色々ともやもやする事になった。

ついに同級生の名前がちらほら出て来ました第6話!!

1学年1クラスと一般的には少なく感じますが、その分翔太郎君は濃い人間関係を築ける・・・のか?

ちなみに島乃高校のモデルは、作者の母校を参考にしております。(当時は1学年2クラスでした・・・)

次回第7話。一体、どんな学校生活が繰り広げられるのでしょうか。

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