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第1話「サヨナラ、空っぽだった我が人生」

 人生百年時代。長い、長すぎる。もういいよどうせロクなモンじゃないから。


 俺の名前は風切翔太郎。中学校三年の夏にもなるが、かれこれ一年半は学校に行っていない。いわゆる不登校ってやつである。


 きっかけを一言で表すと「イジメ」だ。小学校低学年の頃から親友だったやつが、急に中学校デビュー。クラスの一軍と呼ばれるヤツらに気に入られるため、俺をイジリ出したのが全ての始まりである。イジリは日に日にエスカレートし、ついには一線を超えて運悪く学年集会までに事態が発展した。バカな教師達の対応により、無事俺はみんなの前で晒し者。それから学校という箱庭がダルくなっちまった。


 不登校を始めた頃は、両親も担任も口うるさく言ってきたが、今はもう諦められている。今日も部屋で一人、自己研鑽に勤しむ。勉学や青春なんかよりも高貴で意味のあること。


 そう「推し活」である。


 俺は今、アニメ「アイドル☆ライブ」(通称:アイラブ)の女性声優、”早乙女マルス”にどハマりしている。アイラブは幼馴染同士の女子高生2人が、過疎化する地元を盛り上げるためにアイドル甲子園の優勝を目指すというアニメだ。


マルスちゃんは主人公の舞浜なみ役の大人気女性声優である。そして・・・可愛い。こんなしょうもない人生にある唯一の光が推しの存在だ。


 不登校になってしばらく経った後、偶然動画サイトでオススメ欄に流れてきたライブ映像に感動した事がきっかけでどハマりしたが、未だ熱が冷めることはなさそうだ。


「夢を叶えるための道は、決まってないから面白いのさ♪」


 良い歌詞、良い歌声だ。俺には無縁だけど。今はとにかくこの平穏が守られていればそれでいい。

 

その時、誰かが部屋のドアを叩いた。


「翔太郎。少し話がある。下に降りてこい。」


 親父だ。また不登校に対する説教か?これで何度目だ。俺は二度とあの場所に戻るつもりはない。なんなら高校にも行かず、一生親のスネをかじる人生を貫いてみせる。


「なんだよ。俺は今忙しいんだよ。」


「どうせアイドルを眺めているだけだろう?」


 残念でした〜女性声優ですゥ〜。まあ、親父から見れば一緒か。


「降りてこないのはお前の勝手だが、今日の飯はいらないってことで良いんだよな?今日は給料日で懐も温かいんだが・・・」


「お小遣いゲットだぜ!(今すぐおります。お父様)」


「逆‼︎本音と建前が逆なんだよ。ったく現金なヤツめ。」


 へへっ、マルスちゃんのアクスタが欲しかったからな。何を言われようが知ったこっちゃない。


 俺は重い腰を上げて1階まで降りた。リビングに行くと親父とおふくろが座っていた。机の上には、何かパンフレットみたいなものが置いてある。


「なんだよ、話って」


 俺が恐る恐る聞くと、親父が口を開いた。


「お前が学校に行かなくなってから1年と半年。俺たちは色々話し合って、ある一つの答えを出した。」


「まさかこの家を出ていけなんて言わねえよな⁉︎流石に俺には無理だぜ⁉︎そんなの勝手すぎるだろ‼︎」


「まだ何も言ってないだろバカ。最後まで話をよく聞け。」


 すると、ずっと黙っていたおふくろが口を開いた

「出ていけだなんて言わない。ただ、この高校への進学の話をしようと思っていたのよ。」


「いきなりだが、お前にはこの離島にある私立島乃高等学校に進学してほしい。」


 いきなりかつ内容がぶっ飛びすぎていて俺は理解できなかった。


 離島・・・?え、島の高校?離島って島だよな?いや当たり前か。え、どゆこと?待って?


「ちょ、ちょっと待ってくれ‼︎いきなり意味わかんねえよ。島の高校⁉︎いや無理だって。大体俺不登校だぜ⁉︎学校が嫌いなの‼︎しかもその島には誰も知り合いがいねえじゃん。」


「だから勧めているんだ。誰も知り合いがいない、つまりゼロからのスタートだ。お前が不登校になった理由はわかっている。」


「誰もいないからこそ、再スタートできると私達は思っているの。」


表情を見る限り、どうやら両親は自分が思っている以上に色々考えてくれていたみたいだ。だからと言って島はないだろう。そう思った俺は両親へ抵抗するのであった。


「そうだけどさ・・・大体不登校で勉強もしてないのに受験はどうすんだよ‼︎」


「その学校は少し特殊でな。面接と作文が受験科目だ。どうやら学校の方針として学力以外の能力を育てるようなカリキュラムになっているらしい。あとは「島旅留学」という形で県外からも生徒を集めているそうだ。」


 机に置いてあるパンフレットを見ると、確かに「特殊なカリキュラム」「地域連携型教育」と言った言葉が押し出されている。地域活動を通して、二度とない今しかない瞬間だらけの青春が送れる・・・本当かぁ?


「で、でも離島に行くってことは今より不便になるってことだろ⁉︎推し活だってまともにできるかどうかもわかんねえのに、はいじゃあ行きますなんて言うわけねえよ。」


「本当にそれで良いのか⁉︎」


 親父が強い口調で言った。正直ビビった。やべっ、ちょっと漏らしたかも。


「お前、いつもそのラブ・マスターとやらを見てなんて言っている?」


「”アイ☆ラブ”な。色々怒られるのが混じってんぞ。・・・将来は推しのために人生を全うしたい。」


 そう、俺は推しのために生きて、推しのために死にたい。しょもない人生だからこそ、自分が持てる全てを尽くして推しの人生に貢献したいと思う。


「翔太郎、何も推し活が悪いとは言わない。好きにやればいい。だが俺たちは、お前が二十歳になった時点で家から叩き出すつもりだ。容赦はしない。親のスネは一切かじらせない。」


「うわっ、言い切りやがった。」


 この親は人の心とか無いんか?これが一般的なのか?


「今のお前は、胸を張って推しに貢献できると言えるのか?将来もっと稼いで貢いだ方が、推しのためになるんじゃないのか?お前には高校生活の中で、推しに誇れてかつ社会で通用する人間に成長してほしい。」


 それを言われてしまうと反論ができない。事実だからな。


「ちなみに来年から入学する島外の生徒は寮生活になるとのことだ。」


「えっ、不自由確定じゃん。ますます行きたくねえ。」


 今の言葉で足が遠のいた。この俺が誰かと共同生活なんて出来るわけないだろう。


「わかった。じゃあ選ばしてやろう。選択肢①誰も知り合いがいない島乃高校に進学する。お前の動き方次第では、面白い3年間になる可能性もある。選択肢②地元の高校に進学する。推し活は今まで通りかもしれないが、中学と同じようにつまらない日々を過ごす可能性もある。校区上、中学の同級生のほとんどはそこに通うだろう。」


「③の自宅警備員でお願いします。」


「残念だが不採用だ。」


 デスヨネー。ええ、わかっていましたよ。


「翔太郎。選択肢は2つに1つよ。自分で決めなさい。」


 普段は甘いおふくろが真剣な眼差しで言った。おふくろがこうなってしまうと、もうどうにもならない。昔からそうだ。あの人は絶対引かないし、俺は決断するしかない。はぁ、仕方がない。どうせロクでもない人生なのは確定している。


・・・ならば、答えは一つ。


「・・・①島乃高校に行く。ああ‼︎行ってやるよ‼︎どうせこんなクソみてえな場所にいても人生変わらねえからな‼︎あんな奴らとはサヨナラバイバイ‼︎だいたい昔から嫌いだったんだよ、この街そのものが‼︎清々するぜ‼︎大型連休以外は絶対帰らねえからな‼︎」


 俺は半ばヤケクソになって2人に言い放った。もう後戻りはできない。


 後日、俺は島ノ高校の入学試験に無事合格。晴れて春から離島の高校生だ。


 まさかこの選択が人生に欠かせない魔法の鍵(決断)だったなんて、その時は思いもよらなかった。

みなさんこんばんは。あっぷるπと申します。

「離島高校生、島に推しを呼びたい‼︎」略して"しまよび"。

有給消化中に、ふと人生を振り返ってみたところ「そういえば中学の頃、ライトノベルを読んで私もいつか小説を書きたいって考えていたなあ」と思い出して制作へ走り出した次第です。

さてさて推し活しか頭にない翔太郎クンは島の高校でやっていけるのか?島に推しを呼ぶとは?

どうしてそう思うようになったのか?そんな需要がその島にはあるのか?

翔太郎が推しを島に呼べるその日まで、精一杯真っ直ぐに追いかけてみようと思います。

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