第0話「ないものはない場所」
青い空と白い雲。見渡せば一面に広がる透明な海。波の音が響き渡る。
ここは日本の南端にある人口1000人弱の離島、静岡県は霧ノ島絵間町。東京からフェリーで3-4時間はかかる場所だ。
なぜこんな所に、元不登校学生である自分がいるのか。ここは生まれ故郷でも、育った場所でもない。進学で東京からこの島に来たのである。何を言っているかわからないだろう。人生ヤケになった勢いで離島の高校に進学してしまったのが原因だ。それでも、どうしてこうなった感は拭えない。
フェリー降り場の建屋から出るとそこには・・・何もない。いやマジで。コンビニもスーパーもアニメショップも全く無い。離島に来る以上、ある程度は覚悟をしていた。流石にフェリーが停まる港の周辺には何かあるだろうと思った。何もなかった。
「マジで3年間、こんな何もない場所で生活すんのかよぉ。」
来て早々に頭が痛い。かといって今更帰れるわけでもない。とりあえず、自分が住むことになっている「青空寮」って場所まで行かないと。学校から送られてきた地図には坂道注意の文字が書いてある。地図が示す方を見ると、丘の上に青色の建物が見える。
「もしかしてあれか⁉︎嘘だろ・・・この坂を登るのかよ⁉︎ タクシー・・・なんてあるわけないか。」
俺はため息を吐きながら、重いキャリーケースを引きずって港から見える丘の上の建物を目指す。
ないものはない。そう自分に言い聞かせつつ、この先の生活に不安と絶望を覚えるのであった。