第八話 ローランド王子は焦っていた
「何、いない⋯?!」
「そうなんです、娘の部屋をノックしても返事がなく、寝ているのかと思いましたが、もぬけの殻で、机の上にこんな書き置きが」
ブルックス・ティアブレイド公爵は完全に憔悴しきった顔で、真っ青になっていた。
その走り書きのような手紙を受け取って、ランプの灯りで照らすと、その筆跡は確かに、長らく手紙をやりとりしていたときのレイアのものだった。ローランド王子は心にひどい焦りを感じ、服の胸元を握りしめた。
「くそっ⋯間に合わなかったというのか⋯!」
ローランドは側近ユーリに命じた。
「すぐに捜索隊を結成し、レイア嬢の行方を追うのだ!」
「はっ!」
そして王子はティアブレイド公爵の肩に手を置き、安心させようと話しかけた。
「大丈夫ですよ、きっとレイア嬢はすぐに見つかります。僕はまだ婚約破棄など認めていません。あれは、きっと何かの誤解で、彼女が思わず口走ってしまっただけなんです。必ず誤解は解いてみせます」
「王子⋯⋯」
「僕にお任せください。今夜はどうか安心してお休みを」
「ありがとうございます。よかったな、お前」
「ええ、あなた。レイアはきっと無事ですよ」
レイアの母、マイアは涙ぐんでいた。
「それでは、僕も捜索に行ってまいります」
「よろしくお願いします」
ローランド王子は馬に乗ってティアブレイド公爵家をあとにし、急ぎ王城へと舞い戻った。
(レイア⋯レイア⋯僕の大切な婚約者! どうか、無事でいてほしい)
王子の心は焦っていたが、その気持ちはどこか興奮にも似て、これまでの憔悴とは少し違った影を彼の胸に落としていた。




