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第五十一話 フレイラには記憶がなかった

「記憶がない?」


 サーヤを囲んで、アルテミシア・ミレイ・ルティシアの三人は同時に声を上げた。ヌルはその横でパンをかじっていた。そして、サーヤの後ろに、申し訳なさそうな顔をしたフレイラがいた。


「どうも、王子をああした時のフレイラは、違う人格だったのではないかと思う」


 サーヤの言葉に、アルテミシアは頷いた。


「二重人格、ということね」

「そうだな」


 ミレイは胡散臭そうな顔でフレイラに尋ねた。


「そういうことにしておきたいとか、ではないのか?」

「すみません、何がなんだか……」


 フレイラは小さく縮こまっていた。


「私、いったい何をしたんでしょうか…?」


 ミレイはドン引きしていた。


「逆に、どこまでなら覚えてるんだ?」

「ダンジョンの中に潜って、玉座に座っている王子を発見して、王子が私のことをレイアだと見抜いて、ぬいぐるみを見せてきて……」

「そのあとは」

「気づいたら、ダンジョンを出たあとでした」


 サーヤがミレイに耳打ちした。


「つまりブチ切れた時の記憶だけがない」


 ミレイは溜息をついた。


「まあ、聖女の器が人を、しかも王族をああしたともなれば一大事だからな……しかし、あの魔法を知っていたから良かったものの、もしそれがなかったらと思うとゾッとするな」

「別に、聖女の器であるかどうかは関係ない。あたしたちにとっては」

「お前、まさかわかっててわざと放置したのか?」

「なんのことやら」


 サーヤとミレイのやりとりを、事の次第を理解しているユーリは、真っ青になりながら聞いていた。その隣で、ローランド王子はすやすやと眠っていた。もちろん、王子はサーヤが魔法で眠らせているのである。


「お、お前ら……王子と私をどうする気だ!?」


 ユーリは果敢にも震える声で、サーヤとミレイを威嚇した。彼にとって女たちのパーティは、ただの人殺し集団である。


「そうねえ……」


 アルテミシアが人差し指を頬に当てながら、困った顔で考え込んだ。


「まあ、カルバドスの王城に連れていくしかないな」


 ミレイはユーリのほうをチラリと見ながら言った。するとサーヤが、ユーリにずいっと顔を近づけた。


「お前、あたしたちのことを口外したらどうなるか、わかるな? 記憶を失うか、黙っているか、どっちがいいか選ばせてやる」

「ひっ、ひい……」


 ユーリの身体はガタガタ震えた。サーヤが杖でその頭をコンと叩くと、彼は気絶した。


「え、何をしたの?」


 アルテミシアが困惑して尋ねると、サーヤは肩をすくめた。


「面倒だから記憶をとばした。ただ、あたしのこの魔法はちょっとコントロールが難しくて、かなりの広範囲で記憶をなくしてる可能性がある。必要以上に」

「あら……」


 ミレイが快活に笑った。


「まあ、いいじゃねえか! いったんアタシたちのことは全部忘れてもらって、たまたま見つけて救出したってことにすれば! なんか報奨金とか貰えるかもしれねえし」

「どっちかっていうと犯罪者扱いされて投獄される危険があるのよね……」


 アルテミシアは心配そうにフレイラを見た。


「あ、あの……私には何が起きているかよくわからないんですけど、とりあえずローランド王子を私たちがダンジョンから助け出したっていうことなんでしょうか?」

「まあ、そうなる……かな?」


 フレイラの言葉に、ミレイは視線を逸らせながら苦笑した。


「じゃあ、王子を送っていこうか。なんにせよ、カルバドスまで行ってみないと、ことの真相はわからない」


 サーヤの一言で、パーティはカルバドスに向けて出発することになった。


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