第五十話 フレイラたちは迷宮を出た
罠にかかった痕跡を辿っていくのは簡単だった。マップを魔法で出すまでもなく、サーヤを先頭にしてぞろぞろついて歩くだけで良かった。幸い、血の痕跡も何も見当たらなかった。
「よほど運動神経のいい奴か、罠をわざと発動させて避けて歩いた頭のいい奴か、どっちだろうな」
ミレイが面白そうにつぶやいた。フレイラは王子の無事を祈るので精一杯だった。
ふと、サーヤが足を止めた。
「こいつ、最短距離でボスの部屋に辿り着いてる。よっぽどの強運の持ち主か、このダンジョンを攻略したことのある奴か、だけど⋯⋯たぶん強運のほうかな。王族は国神の加護のめちゃくちゃ強力なタリスマン持ってる場合があるからな」
酔っ払っていないときのサーヤは冷静である。彼女は石の扉を開いた。入ると、そこには巨大なレッドドラゴンの屍があり、その先に宝の山と玉座があった。
よく見ると、玉座とそのそばに人が座っていた。
「ローランド王子⋯⋯!」
フレイラは彼の無事を確認すると、急いで駆け寄った。
「お怪我はありませんか?」
ローランド王子は一瞬きょとんとした目でフレイラを見たが、ふっと玉座を降りてフレイラに接近し、ふんふんと匂いを嗅いだ。
思わずぞっとしてフレイラがあとずさると、王子は目をきらきらと輝かせた。
「レイア! レイアじゃないか!! やっと会えた、僕のレイア⋯⋯!!」
王子はフレイラを抱きしめようとしたが、フレイラは脱兎のごとく逃げ出してサーヤの後ろに隠れた。
「レイア、瞳と髪の色が違うから一瞬誰かわからなかったよ、でも匂いですぐわかった。僕を探しに来てくれたんだね? 嬉しいよ、出られなくて困ってたんだ」
「匂いでわかるとか超キモいんですけど!」
フレイラの悲鳴をよそに、サーヤがつぶやいた。
「こいつ、ボス認定されてる⋯⋯」
「ボス認定? どういうことですかっ?」
「そのドラゴンをたぶん自力で倒したんだろう。そのあとうっかり玉座に座ってしまったんじゃないかな。ここは古いダンジョンだから、徘徊しているモンスター同士が戦って、いちばん強い奴がボス認定されるようになってる」
「え、それじゃあ、出られないというのは⋯⋯」
横で体操座りして話を聞いていたユーリが、横槍を入れた。
「確かにローランド王子はドラゴンを倒されました。私がこの目で見ています。そのあとどう頑張っても、どこの扉も開かなかったんです。あなたがたが来てくださって、助けていただこうと思ったのですが、ここから出るためには王子が犠牲になってしまうということなんでしょうか⋯⋯?」
おろおろしているユーリに構わず、ローランド王子はフレイラに、レイアの姿をかたどったらしき、女の子の形をしたぬいぐるみを見せてきた。
「これ! 退屈だから材料を適当にそこの山から探して、ぬいぐるみを作ってたんだ! よくできてるだろ? 『レイアたん』って名前をつけたんだよ、ほら見て!」
フレイラは無言でそのぬいぐるみを引きちぎった。
「あー!! レイアたーーーーーん!!!!」
ローランド王子は悲鳴をあげたが、フレイラはそれでもおさまらず王子の首根っこをつかむと、床にゴン!と叩きつけた。そして、それを延々と繰り返した。
「お、おい⋯⋯」
ミレイが止めようかと手を上げかけたが、サーヤとアルテミシアがミレイの手を押さえ、首を横に振った。
ゴン、ゴン、ゴン、ゴン⋯⋯
フレイラが王子の頭を床に叩きつける音が、まるで永遠に続くかのように響きわたる。
やがて、ファンファーレの音が響いて、大きな石扉がゴゴゴ⋯と音を立てて開いた。大広間は明るくなった。
「みんな、出て」
叩きつけるのをやめたフレイラが、王子の首根っこを掴んだまま、背中を向けてぼそっと言った。
「あ、あのう、王子は⋯⋯」
ユーリが恐る恐る尋ねると、フレイラはものすごい一瞥をくれながら言った。
「いいから出て」
自分も殺されるかと思ったユーリは、「ヒッ!」と声を引き攣らせて逃げていった。全員が出たのを確認すると、フレイラはズル⋯ズル⋯と王子の体を引きずりながら進み、最後に大広間を脱出した。
そしてサーヤがユーリの頭をコンと杖の先で叩くと、ユーリは意識を失って倒れた。それを見届けたあと、フレイラは王子に蘇生魔法をかけ、意識を取り戻した王子をもう一度殴って気絶させた。
「玉座に私が座らなければボス認定はされないですよね?」
と、フレイラはサーヤに尋ねた。その目は据わっていた。
「あ、う、うん、そうだね⋯⋯」
サーヤは心の中で汗をかきながら、肯定した。
「じゃ、行きましょうか⋯⋯」
フレイラはそのまま王子の体をズル⋯ズル⋯と頭陀袋のように引きずり、ユーリはミレイが背中におぶって、パーティーはダンジョンを出たのだった。




