第五話 レイアは思い出した
温かい湯に浸かり、レイアは疲れを癒しながら、ゆったりと思いをめぐらせた。
(今、この身があるのはお父様とお母様のおかげだわ⋯⋯二人にこれ以上迷惑はかけられない)
レイア・ティアブレイドとしての記憶は、さすがに産まれたばかりの頃のことは覚えていないが、二歳か三歳頃のことであれば、なんとなく覚えている。
どの記憶も幸福に包まれ、大事にされ、愛されて育ったことはきちんとわかっている。まさしく「銀の匙をくわえて」育った令嬢なのだと、レイアは自覚している。
ローランド王子との交流の思い出もたくさんある。初めて出会ったときのことや、許嫁であると知ったときのこと、だんだん背が高く美しくなっていく王子の姿、それになんの疑いもなく憧れて、誇りに思っていたことーー
しかし今日になって、月に一度の晩餐会の夜に、まさかのことが起こった。
はじめに思い出したのは、目の前に迫ったトラックのヘッドライト。そして、無一文の裸同然で自宅を追い出されたこと。よその女を連れ込み酒瓶で自分を殴った男の顔。その男が最初に近づいてきたときのニヤついた顔。いろんな記憶が、ドッと波のように押し寄せてきた。
レイアは慌てて、自分の顔にバシャバシャと湯をかけた。こんなことではいけない。記憶が蘇るたびに動揺してしまう。
(前世の私は、情けない女だったわ⋯⋯でも今は違う。もう、必要なだけ、すべてのものは自分で持っているのだもの)
そんなレイアの頭の片隅に、自分を見つめる心配そうなローランド王子の顔が浮かんだ。
ローランドにとってみれば、寝耳に水だろう。幾分気の毒な気もした。だが、それ以上に、前世の男に対する恨みがレイアの心に湧いてくる。




