第四十二話 フレイラたちはヌルを連れて行った
少女は、どこにいるのかよくわからずに、ぱちぱちとまばたきを繰り返し、まわりにいる知らない女性たちをかわるがわる眺めて、首を傾げた。服は、一般的な村の子ども風だったが、布は高級なものだ。
「あなた、名前は? 言葉はわかる?」
フレイラが話しかけると、彼女はしばらくフレイラの瞳をじっとみつめたあと、
「ヌル」
と答えた。それから、
「ここはどこ?」
とフレイラに尋ねた。
「リルム村のはずれよ。あなたのおうちは?」
と、フレイラが質問を返すと、
「わかんない。お腹空いた」
と言った。可愛い顔立ちの少女は、フレイラの袖をぎゅっと握って、
「おねえちゃん」
と言った。
(⋯⋯?)
フレイラは不思議に思ったが、きっと不安なのだと思って、七、八歳くらいに見えるその少女を優しく抱きしめた。
「サーヤ様」
呼ばれたサーヤは前に出た。
「何」
「この子、連れて行っていいですか。家がわからないらしいから、村の人に訊いてまわってみようかと思います」
「好きにすれば。何か食べさせてやればいいんじゃない? あたしのパンはひとつだけならあげてもいいけど」
「ありがとうございます!」
サーヤが少女に渡したパンは、体力回復のパンだった。アルテミシアは水筒に入れていた紅茶を少女に飲ませた。ヌルと名乗った少女は礼も言わずに、がつがつと夢中でパンを食べ、紅茶を遠慮なく飲んだ。
そして、パンでお腹がふくれると、またフレイラの服をにぎって彼女に抱きついた。
「どうやら気に入られちまったみたいだね。その子、なんらかの能力を封じられてる。こりゃあ⋯⋯呪いだ」
ミレイが言った。
「呪い⋯⋯」
フレイラがつぶやくと、ミレイは説明し始めた。
「呪いってのはね、禁じられた魔法の一種だ。たとえば人の魔法や能力を使えなくしたり、一瞬で命を奪ったり、モンスターを作ったり、あとは⋯⋯悪魔を召喚したりする」
「悪魔? この世界には悪魔がいるんですか?」
「ああ、まあ、いるね。それほど攻撃はしてこないけど、強いから戦うとなると厄介だ。まあ私はデーモンスレイヤーだから気にしなくていい」
フレイラは少し安堵した。
「ミレイさん、本当に強いんですね」
「あー、長生きしてるからな」
ミレイは得意げに言った。
「でもフレイラ、その子の家族が見つからなかったら、どうするんだい?」
「その時は⋯⋯その時になってから考えます」
「そっか。まあ、小難しいことにならなきゃいいけどな」
サーヤが口を挟んだ。
「いいんだよ。あたしがいいって言ったんだから。ほら、行くぞ」
そして一行はヌルを連れて村の坂道を下りていった。




