第三十三話 レイアは動揺した
レイアはカルバドス王国の王妃となるための教育を受けている。そのため隣国シーエンド皇国の法皇が、女神信仰の神官であり、仕えているのは女神の力をその身に宿す姫巫女である「聖女」だと知っている。
また、聖女は代替わりするときに三人の候補者を選出する。それを「聖女の器」という。聖女はその中から選ばれ、選ばれた少女は特別な魔法と力を授かるという。
「でも、なぜカルバドスの公爵家の娘なのに、聖女の器だと⋯?」
レイアが疑問をぶつけると、ミレイは首を横に振った。
「シーエンドの『喪われた宝石』を知らないのかい? あんたのそのアメジストの瞳は、喪われた宝石であることを示している」
レイアはドキッとした。そういえば幼い頃、両親と瞳の色が違うことや、まわりの子どもたちに誰も紫色の瞳の子がいないことを疑問に思っていたが、両親が上手に自分の疑問をいなして、なんでもないことのように振る舞ってくれていたのだ。
「わ⋯私、違います! 聖女の器なんかじゃありません」
「どうしてそう思う? 証拠はあるのか?」
ミレイは冷たい声音で言った。
「だって⋯両親は私をすごく可愛がって育ててくれたし、実の子だからこそ⋯」
「器だと知って、守っていたとしたら?」
「そ、そんなこと⋯⋯!」
レイアは動揺を隠しきれなかった。しかし、逆に質問をぶつけた。
「器だと知っていたなら、王子と婚約なんてさせますか? それに、紫の瞳を隠しもしなかったのは、なぜですか? ありえないですよ!」
「あたしとしては」
ミレイの視線がレイアをまっすぐに見据えた。
「あんたの両親が、愛する娘を必死になって探し回っていないことのほうが疑問だね。あんた、どうしてシーエンドへ来たんだい?」
「⋯⋯」
レイアは自分の小さな夢がぐらつくのを感じた。自分がもし聖女になどなったら、一生涯を神殿に縛られ、自由がなくなってしまうだろう。だが、聖女はその力で皇国を女神の庇護下に置く、大切な神職である。そんな大事なことの前に、自分はなんと浅はかな夢を抱いてしまったのか。
「ミレイ殿、ちょっと待ってほしい」
ルティシアが割って入った。
「聖女の器としての証拠は、瞳の色だけなのか? 他にも特徴はあるはずだ。どうしてフレイラ⋯いや、レイア殿か、彼女だと確信しているのか教えてほしい」




