第三十話 フレイラは初めて戦闘を見た
道すがら、サーヤは歩きながらフレイラに魔法の手ほどきをしていた。フレイラが理解していた回復魔法は、サーヤの大雑把な説明により、少し誤解があることがわかった。それは初心者が必ず陥るステップで、次の理解のために大事なことなのだとサーヤは語った。珍しくサーヤが饒舌なので、フレイラは不思議に思っていたが、それは、
「お酒が入っていないからよ」
と、アルテミシアがニコニコしながら答えた。
「酒が入るとモンスターを殺しすぎてしまうから今は控えてる」
サーヤは面倒くさそうに説明を加えた。
「一度、呑みながらクエストしてて、調子に乗って一山分の森全部焼いちゃったことがあるからね。消火はしたけどあれは酷かったわね」
「ちゃ、ちゃんと植生も元に戻した!」
「まあ、森が完全に復活したわけではなかったけど……」
「できる限りのことはしたって!」
(アルテミシア様とサーヤ様の会話を聞いていると、恐ろしい光景ばかり目に浮かぶわ)
と、フレイラは内心震えながら思っていた。
「ところで」
ルティシアが振り向いてサーヤに尋ねた。
「私の鑑定スキルを用いても、サーヤとアルテミシアのレベルが隠されていてわからない。あなたがたのレベルはいったいどれぐらいあるんだ?」
「それは秘密。低くはないから安心して」
アルテミシアが笑顔で答えた。
「わかった。では実力を拝見するとしよう」
ルティシアは素早く呪文を詠唱した。隠遁魔法で姿を消しているモンスターを暴き出す魔法である。相手はグレイファングという、中級モンスターだった。暴き出されたことに気づくと、三頭のグレイファングはまずルティシアに襲い掛かってきた。
ルティシアは剣も抜かずにその攻撃をいなした。自分たちを試しているのだと気づいたサーヤとアルテミシアは、すぐ行動に出た。
まずアルテミシアが素早く一匹のグレイファングに矢を射って額に命中させ、倒した。その間にサーヤが両手からファイヤーボールを出現させて二匹のグレイファングを同時に屠った。
(すごい……!)
本物の戦闘を初めて目にしたフレイラは、興奮していた。そして、アルテミシアからもらった魔法書を読んで理解した魔法のひとつを使おうとした。魔力を回復させる魔法である。するとそれに気づいたサーヤに止められた。
「いらない、それ。このぐらいの消費しても、ほっとけば1、2分で回復する。でも、ありがとう。いい勘してる」
フレイラは返事のかわりに微笑んだ。役には立てなかったが、褒めてもらえたことが嬉しかった。
「だいたいわかった。試すようなことをして、済まなかった」
ルティシアがサーヤとアルテミシアに謝罪した。
「二人はグレイファングの存在に気付いていただろうが、フレイラは」
「……すみません、全然わかりませんでした」
「そうだろうな。隠遁の魔法を暴く方法を、何か……」
「あ、大丈夫です」
フレイラは手をひらひらさせて言った。
「どうも私、一度発現するのを見た魔法は理解できるみたいで、たぶんもう、今見たものは使えると思います」
「え!?」
ルティシアが驚愕の眼差しでフレイラを見つめた。
「そんなスキルもあるのか。わたしもまだまだ浅学だな……」
「いえ……これまで魔法書しか読んでなくて、実戦初めてだったので、自分でもわからなかったんです。でも、普通は魔法ってどういうふうに習得するものなんでしょう?」
「……人間の場合は、師匠について教えてもらうのが一般的、だろうな。サーヤとフレイラはそういう師弟関係だと理解していたのだが」
「すみません。私が弟子入りしたのはまだ、ごく最近のことで」
「もちろんあたしだってちゃんと教えるべきことは教える」
サーヤが拗ねたように口を挟んだ。
「ルティシア、この子はあなたが思っている以上に魔法の才能がある。いつか我々をびっくりさせる日が来ると思う」
「もう既にわたしはびっくりしているが……」
才能があると言われて、フレイラは顔がかーっと熱くなるのを感じた。
(サーヤ様に本気で褒めていただけるなんて、嬉しい……!)




