第二十八話 フレイラは怒りを爆発させた
アルテミシアが「いいわねえ、それ」と笑顔で言いながら、「でも」と付け足した。
「その前に、ひとつやらなきゃいけないことがあるんじゃないかしら」
フレイラには思い当たることがひとつあった。
「……あっ」
「言ってみて?」
「ローランド王子の、救出……ですか?」
「そうね」
アルテミシアとサーヤはフレイラの顔を覗き込んだ。
「フレイラちゃん、本当にその王子様のこと、なんとも思ってないの?」
「うう……」
王子の顔を思い浮かべると、フレイラは眉根を寄せて顔を歪ませた。フレイラの心に、前世で彼女の最初の恋人だった男の顔が浮かんだ。その男は、まだ大学一年生だった頃の彼女を妊娠させ、それがわかると彼女をあっさりと捨てたのだった。そこから、彼女のダメンズ人生が始まったのだ。その男に、ローランド王子は少し似ていた。特に顔がいいところが、フレイラの癪に障った。
「男なんて……男なんてっ……!」
フレイラの体から炎が燃え上がるように、怒気が立ち昇った。
「あんな最悪な生き物、死あるのみ、なのですっ!!」
アルテミシアが溜息をついた。
「これは重症ねえ……」
翌朝フレイラたちは旅の準備を整え、宿屋「白鴎亭」をあとにした。
「はいこれ、お弁当」
おかみはサーヤに、革袋にぎっしりと詰めたパンを手渡した。
「ありがと」
サーヤはおかみにギュッと抱きつき、嬉しそうにパンの袋を背負った。中身は油紙で包まれているため、革袋の臭いが移る心配はない。
「これはポーションと、毒消しの効果」
サーヤは鼻をくんくんさせながら先頭を歩いた。
「しかも、美味しい」
「サーヤ、よだれ」
アルテミシアはかいがいしくサーヤの口のまわりをハンカチで拭いてやった。サーヤの見た目は年齢に反して十二歳ほどの少女に見えるので、まるで母親と娘のようだった。
「ところで……」
ルティシアがフレイラに尋ねた。
「フレイラ、あなたはなぜその仮面をつけているのだ?」
(うっ……)
いつか説明せねばとは思っていたが、フレイラは、ルティシアに自分の事情を全部話すのはためらわれた。




