第十二話 レイアは魔法を使った
国境の門から入って数分歩いたところで、男の家に着いた。男の身なりはあまり派手ではないが、仕立てのよい服を着ている。
「ここだ。入ってくれ」
公爵家とは比べものにならないが、決して貧相ではない屋敷だった。家具もまあまあ良いものを使っている。男に導かれるまま、屋敷の奥に進んだ。
「母さん、魔導士様を連れてきたよ。もう大丈夫」
「うっ、うう、う⋯⋯」
男の母親は意識朦朧としているようだった。これはいけないと思い、レイアはまずヒールをかけて体力を回復させた。そののち解毒魔法を何種類か試した。幸い、三つ目にかけた解毒が効果を発揮した。
みるみるうちに顔色が戻り、呼吸も楽になったようで、レイアはホッとした。実際に魔法を人にかけたのは初めてのことだ。これまでは実験的に、犬や猫などの動物にかけたことしかなかった。
「母さん、気分は? まだ苦しいかい?」
「ら、楽になったよ⋯⋯ありがとう」
良かった。仮面の下で、レイアは微笑んだ。
「あんた、すごい腕だな。どこかの冒険者ギルドに入っているのかい?」
レイアは首を横に振った。この世界には冒険者ギルドがあるということも初めて知った。それが何であるかは、前世の記憶のおかげでだいたい想像がつく。
「おっと、謝礼を渡さなきゃいけないな⋯⋯いくらぐらい払えばいい? 金貨三枚くらいでどうだ?」
男の申し出に、レイアは遠慮を示した。
「要らない? どういうことだい?」
レイアはようやく声を出した。
「実はすごくお腹が空いていて、何か食べさせてほしいのです。お金は別に要らないんです。昨日から何も食べていなくて⋯⋯」
「えっ、それだけでいいのかい? そりゃあ、お安い御用だ。ていうか、あんた女の子だったんだな。可愛い声してら」
男の母親がベッドから立ち上がろうとしたが、男はそれを押しとどめた。
「母さんは寝てなよ。俺が全部やるからさ」
「すまないね、ウェン⋯⋯でも、本当に、もう気分はほとんど大丈夫なんだよ」
「いいよ、今は大事をとって休んでて。布団、かけておくよ」
ウェンと呼ばれた男は母親を寝かせ、布団を肩まで優しくかけてやった。
「ウェンさん、パンとスープとか、簡単なもので構いません。手の込んだ料理は必要ないですよ」
「あっ、名前⋯まだ名前も名乗ってなかったな、失礼した」
ウェンは苦笑いした。
「俺はウェン・ディール。この街で料理人をしてる。あんたは?」
「私、私は⋯」
レイアは一瞬考えたのち、小さな声でつぶやいた。
「フレイラ」
「フレイラちゃんか。若いのに、本当に腕のいい魔導士だね。今すぐ腕をふるってごちそうを用意するから、待っていておくれよ」
「⋯⋯ありがとう」




