第十一話 レイアは仮面をつけた
「まさか、これが役に立つ時が来るなんて⋯⋯人生ってわからないものね」
レイアはカルバドス王国と、隣国シーエンド国の国境を今まさに越えようとしていた。その手には白くつるりとした、飾り人形めいた仮面があった。顔の上半分が隠れ、眼の部分は透ける黒い布があてられているため、瞳の色がわかりにくくなっている。
この仮面は、昔レイアの兄オスカーが、旅行の土産に買ってきてくれたものだった。正体を知られたくない婦人がこれをつけてパーティーに出るための、おしゃれアイテムであるという。遊び心はあるが、レイアには面白くないプレゼントで、当時はがっかりしたものだ。
レイアは白銀の長いまっすぐな髪と、薄紫の澄んだ瞳が特徴で、もし母国の誰かに探されて連れ戻されると厄介なので、変装すべきだと考えて、これを持ってきたのである。
装着して鏡をみると、悪くない出来だった。レイアは髪を束ねてケープのフードにしまい込み、旅の魔導士のふりをして越境しようとしていた。
実は、レイアは魔導士ではないが、簡単な魔法を使うことができる。令嬢に魔法は必要ないが、好きで魔導書を読み漁り、師にはつかずほぼ独学で身につけた。
いろいろな種類の魔法が一応使えるが、特に、回復魔法や解毒魔法は彼女の得意とするところだ。そして、身分を隠して市場を見てまわったとき、古いペンデュラム型のネックレスを手に入れていた。あとから知ったのだが、奇遇にもこれは魔導士であることを示す職業証のようなものだった。
亡くなった魔導士の家族が、もう要らないからと売ってしまったものが流れ流れて、手に入ったものと思われる。
(このペンデュラムが使えるかどうかは、いちかばちかだけど)
国境には壁と門があり、通るには身分証が必要なのだ。仮面をつけたレイアは、ドキドキしながら門番にネックレスを見せた。門番は胡散臭そうに一瞥したあと、あごをくいっと上げた。
「行ってよし」
レイアは心底ホッとした。そしてそのまま門を潜ろうとすると、いきなり町人らしき男から話しかけられた。
「おい、あんた、魔導士か?」
レイアが黙って頷くと、男は彼女の腕を掴み、連れていこうとした。
「うちの母さんを助けてくれ! 何か、毒を飲んだらしいんだ。苦しがってる」
正直面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だったが、死にそうな人を放っておくこともできない。レイアは大人しく町人の男に引っ張られるまま、ついていった。




