第十話 ローランド王子は旅立った
どこから手に入れたのか、側近の制服を着て髪型を変え、眼鏡をかけて変装したローランド王子が王城の回廊を歩いていた。そこへ、報告に戻ってきた王子の側近たちとユーリが通りがかった。
「王子がいないぞ! 探せ」
「陛下から謹慎処分を言い渡されたとのことだ」
「我々の行動も制限するとのお達しだぞ」
「王子が我々に命じたのではないか」
「情報が錯綜している」
ざわめく側近たちをよそに、歩き去ろうとしたローランド王子の肩を、ユーリが掴んで引き止めた。
「君」
知らぬふりを通そうとしたローランド王子の耳元で、ユーリは囁いた。
「王子。ちょっと、外で話しましょう」
(バレていたか)
ローランド王子とユーリは、何食わぬ顔で中庭に出た。
「王子。いったいどういうことなのです」
「仕方がないのだ。父上に二週間の謹慎を申し付けられた。だが、その間にレイアの身がどうなるかわからない」
ユーリはため息をついた。
「我々は統率を失って混乱しています。私はこの混乱をどうにかしなければなりません。大人しく謹慎をされてはどうですか」
「嫌だ! 僕はレイアを探す。父上の命令と言えど、これだけは譲れない」
「王子⋯⋯」
これまで父親に従順だったローランド王子とは思えないほどの変化に、ユーリは戸惑った。
「しかし、レイアお嬢様の行方にお心当たりはあるのですか? 我々の捜索でも探し切れなかったのに」
「馬鹿にするな。これでも長らく二人で愛情を育ててきたのだ。彼女が考えそうなことならわかる」
「では⋯」
「シーエンド国との国境付近を探す。きっと彼女はそこにいる」
ローランドの言葉は勘で言っただけの当てずっぽうであった。が、奇しくもレイアは実際にその辺りを歩いていた。
「くしゅんっ」
レイアはくしゃみをして、ちり紙を探した。しかし、慌てて用意したため、ちり紙だけは荷物に入っていなかった。
王城の中庭ではユーリとローランドが押し問答していたが、やがてユーリが諦めた。
「わかりました。私にできることはなんでもします。だから王子、お一人ではなく私を同行させてください」
「おお、わかってくれたか⋯!」
「とにかく、一人ではダメです。私も準備がありますので、すぐに参りますから、ここでお待ち下さい。くれぐれも、先に行かないでくださいよ」
「わかった」
そのとき回廊を、国王ケイオス十三世が通りがかった。側近に変装しているローランド王子と、ユーリの二人は急いで跪き、やり過ごした。
ケイオス十三世は、息子の変装には気づいていないようで、一瞥もせずに通り過ぎていった。
やがてローランドとユーリは再びその場所で集合し、周囲を気にしながらそっと出ていった。その様子を、回廊の二階から観察していた影があった。ローランド王子の腹違いの弟にあたる、リヒト第二王子であった。
「ふふ⋯⋯」
リヒト第二王子は暗い微笑みを湛えて、兄の旅立ちを見守った。




