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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
8章 貴方が見えない世界の果てで

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坊ちゃんの本懐

 それからお婆さんはⅡの過去についてゆっくりと話を始めた。最初はどこかの貴族の御曹司で、たびたび抜け出してはここに来ていたこと。魔術の家系でないにもかかわらず、魔術としての才に恵まれていたこと。そして奇しくもその魔術によって彼の一族は滅びの一途を辿り彼は孤児としてここで育ったこと。そんな彼の人生を見てきた彼女からすればⅡは世紀の極悪人である前に一人の可愛い子供であった。

 酒花さんはお婆さんに事の経緯を誤解ないように伝える。それを聞くと怒るでもなく悲しむでもなく「そうだったんだね」と言葉を漏らした。一体どういう気持ちで受け止めたのかは僕達では知るよしもない。ただ、きっと彼の選択を彼女は否定したりはしないんだと思う。

 砂時計はもう少しで時の観測をやめる。雪広が魔方陣を書き終わって転移の準備ができたと声がかかったときだった。

「婆ちゃん。あんだけ誰にも言わないでねって言ったのに結局言っちゃったんだね。仕方ないなぁ。ちょーと全員僕の目的が終わるまで消えててくれる?」

 そう言って彼が指を鳴らす瞬間、土壇場で雪広が魔術を使ったことで僕と雪広と酒花さんにサイドゥン、ロビンソンとウルラの六人は魔術協会がある場所の座標へと転移した。

「……はぁ、はぁっ。ホントになんなのっ!」

 毎度のことのように急に多人数を転移することになって雪広は若干切れ気味に咆えた。僕たちは何もないただ海の景色が床に映し出されたような場所に立っている。周りを見るが少なくとも目で見える範囲には水平線しか映っていない。

「ありがとう、助かったよ」

「気にしないで。これが私の役目だったわけだし」

 酒花さんのお礼に彼女は地面にへたりながら答える。ここからはバトンタッチ、ロビンソンの番だ。

「待っていてくださいね。前みたいなのをやると少しだけ何もできなくなるんであの人が来たら護ってください」

 そうして彼は先祖返りの力を解放すると力強く地面を一踏みする。そこからまるで地殻だけじゃなく、その奥まで掌握したかのように彼の持つ魔力を地面から感じ取れるようになる。いや、どちらかというと彼の持つ魔力が地面と適応していっているのかな。とにかく彼の踏み込んだ足下から少しずつ隠されていたものが姿を見せ始めた。

「僕はここで彼のことを隠しています。なんで酒花さんは雪広とサイドゥンを連れて行ってくれませんか?」

 見ると調子は良くなさそうだが立ち上がる力は戻ったみたいだ。なんとか立ち上がった彼女は酒花の方を見ると頷いて先に姿を見せた魔術協会の方へと向かった。サイドゥンやウルラもそれに続き、足を止めていた酒花さんも気をつけてとだけ言って彼女に追いつくように行った。

「ありがとうございます」

 顔を上げた彼はお礼を言いながらもその地面の支配範囲を少しずつ広げている。少なくとも僕なんかよりは先祖返りの力を使いこなせていると思う。

 そう思いながら僕は先祖返りの力を使って霧を発生させた。それはとある霧の街のようにどこまでもどこまでも広がっていく。ロビンソンが地面を掌握するのなんか比にならない速さで霧は瞬く間に広がっていく。この中で僕達を見つけるのは川辺で素手で砂金を見つける所業と同じだ。しばらくは安全なはず。

 一定の範囲の掌握を終えたロビンソンはゆっくりとその力を解いて元の姿に戻る。幼い体だからか、力を使った後の彼は急に転移をした雪広以上にしんどそうだ。

「大丈夫?」

「はい、ちょっとだけ力を使いすぎただけなんで」

 彼が伸ばした手を取ろうとしたとき、その手は僕の手をすり抜けて地面へと落ちる。体の支えを失ったかのようにロビンソンはそのまま倒れ込んだ。そしてそれと同時に世界が地面を取り戻した。

 それは瞬く間だった。辺りを見ればそこはどこかの小さな町の一つのように思える。だけど今はそんなことはどうでもいい。さっきまで見えることのなかった町がどうして突然見えるようになったんだ。僕は倒れるロビンソンを支えながらひとまず魔術協会へと入っていく。

「ちょ、酒花さん。外が!」

 ちょうど話を始めようとしていた酒花さんたちに外に出てもらって確認してもらう。やっぱり僕の見間違いじゃない。さっきまで見えることの無かったオーストラリアの町が地面が大陸が姿を現していた。酒花さんはその光景を見て手放しに喜ぶことはしなかった。倒れているロビンソンの方を一瞥すると家接に尋ねる。

「彼は、力を使って倒れてしまった。それで合っているかな?」

「そうです。まだ幼いので仕方がないのかなって」

「そういうことか……。ならこれがどういう状況なのか大体分かったよ」

 サイドゥンは倒れているロビンソンの方を見ている。そしてその小さな手を一度握ると確信を持ったように酒花さんに言った。

「どうやら私たちもⅡの術にかかってしまったみたいだね」

「まぁ、ここはポジティブに考えよう。彼がいる可能性の高い方へと来ることができたんだ。戻って彼らがこの大魔術の痕跡を見つけられているのかを聞こうか」

 一国で大陸の名を冠しているだけはある。本部のあるこの辺りの地域をとりあえず探せる範囲で探してみたがそれらしいものは何も見つけることはできなかったとのことだった。

「支部の人達にも聞いているのですが、怪しい魔力を感じるもののその場所まで把握することができないとのことで」

 どうやら相手の方が一枚上手らしい。こうなったら直接現地に赴くしかない。

 彼らと話し合ったところウルラの覚えたという空を覆うような感覚をここにいる人の中にも数人は受け取ったらしく、実際に何かが空を覆うのを見たという人までいた。その人の言うことを信じるのであれば魔術の始発点は存在することになる。これでまた少しⅡの仕掛けた魔術の解明に近づいた。

「ということで、二人に頑張ってもらったんだ。私もここまで来た以上少しは活躍するところを見せようか」

 重い腰をあげたサイドゥンは珍しくすでに魔眼で世界を見通していた。

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