地に足つけて目をよく凝らして
「ということで、とりあえず解決法が見つかったね」
大陸を覆うように使われた魔術は視覚か何かを誤認させる魔術だった。空も地もその魔術にかけようとしたけどロビンソンが地殻を掌握したからどうやら打ち消されたというのが今のところ考えられる要因だ。だけどこんなに大規模な魔術に関してはまだ説明がつかない。何よりこんなに大きな魔術なのに術者が割り出せていないのがとても奇妙な所だと酒花さんは指摘した。
「もし酒花さんの言う通りなら、その隠された側の世界に術者も隠れてるんじゃないの?私がもし当事者ならそうすると思うけど」
「確かにそれなら術者の割り出しは行えないけど、それって何か意味があるのかな」
雪広の言葉は一理あるが、その魔術がどれだけの時間を稼げるものだとしても最終的にきっと解かれてしまう。そこまで手の込んだことをしておいて大した時間稼ぎにもならなければやる意味はない。もしそこまでしないといけないことがあるのだとしたら、それはきっと以前特務課の人が言っていた幹部がそれぞれに持っている目的の達成のためだ。隠されたオーストラリアの土地でその目的が達成する前に急いでこの魔術を解かないと僕たちは手も足も出ないまま終わってしまう。
「なんだか急がないといけない感じだね、これは」
酒花さんは少しだけ焦りを額ににじませる。
とは言ってもすぐに解決する手段がある訳でもない。まずは分かっていることから調べていくのが一番だ。彼はもう一つ解っていること、空を覆った感覚というものについて考える。そっちの方から調べていった方が手がかりを掴めるはず。
部屋に置かれていて壊れていた砂時計は、いつの間にかゆっくりと動き始める。秒針を数えるのを始めたように話はゆっくりと進んでいた。
「とりあえずロビンソンの言っていた空を覆った魔術が何か分かれば良いわけだけど、誰か心当たりのある人っていたりする?」
僕も雪広と顔を合わせるけど、もちろん2人とも顔を横に振る。サイドゥンに聞いてみたら「私は空なんて見たことないからどのくらいの規模か分からないな。自分の魔術でしか比べる方法は無いし、直接視てみないことにはね」
それはそうだ。見えない人に聞くことじゃない。でも見えないことだからこそ役立つことがあるのはさっき証明された。話をしている間にも彼女はしきりに僕達では何も見えない海の映る景色を眺めている。彼女がそこで何を見ているのかは目の見えない人ですら知ることはないんだろうな。しばらく考えていると何やら酒花さんが閃いたように言う。
「そういえば、君の魔術はこの不明の魔術に対抗することができるかもしれないんだよね。それならこの目の前に広がる土地に対して魔術を使ってみるというのはどうかな」
ロビンソンの持つ先祖返りの力を使って今も残っている土地がある。彼の力ありきにはなるけれどこのまま開拓を続けていけば時間はかかるとしても最終的にⅡが起こした魔術は意味がないことになる。
けど、
「それは結局Ⅱの思うつぼに嵌まってるって僕は思います。さっきも話していた通り、これが時間稼ぎなんだとしたらもっと優先的にその魔術を使うべき場所があるはずです」
「それはオーストラリアにある魔術協会のことを言っているのかな?」
僕は酒花さんの方法には否定的だった。同じ妖精の先祖返りのよしみとして言うのであれば、僕も彼もたぶんきっと魔力量という面では常人の比ではない量があるのは自覚している。だけどだからこそ多少の無茶は体がどうにかしてくれるはずだ。でも逆に言えば常人よりもそのブレーキラインがずっと遠いってことになる。もしそんな限界を迎える時にⅡが来てこの魔術が上書きなんてされてしまったら、僕達はそれこそどうしようも無くなってしまう。誰とも連絡も移動もできない。認識の外にあるのだから簡単に助けることもできないなんてことになったら終わりだ。酒花さんはその意見を聞いた上で代替案としてあげられた具体的な対象を明示する。もしⅡと同じ見えない土地の方にいるのなら戦闘になっているかもしれない。解決策はそっちの方が立てやすいと思う。
「私にも意見がある。もし視覚や聴覚だけが遮断されているんだとしたら、オーストラリアの土地自体は何も変わってないんじゃない?それなら私の魔術は座標を指定して転移できるしそこで魔術を使ってもらえばもっと具体的な情報が共有できるじゃん」
作戦は少しずつ具体的になっていく。支部にある資料の中にはしっかりと本部の住所が書かれた紙や、オーストラリア本土が事細かに書かれている地図があった。これだけあれば雪広の魔術でその場所まで転移できるはずだ。そうと決まったら、善は急げだ。
雪広は早速外に出て魔方陣準備を始める。僕もそれを手伝おうとしたけど、Ⅱが仕掛けた魔術について話し合っているのを見てそっちに集中してと言われてしまった。
どうしてそんなことになったのかといえば、ちょうど飲み物を出しに来てくれた支部にいたお婆さんが決定的なことを教えてくれたからだ。
「なんだい、みんなルッチ坊ちゃんのことを話しているのかい?」
コップを置きながらそう呟いたのを聞いて全員が顔をお婆さんの方に向けた。
「失礼ですが、Ⅱのことについてご存じなのですか?」
「知ってるも何も、あの子は元々この支部にいたんだよ」
衝撃的な一言と共に、懐かしそうに遠くを見るお婆さんの目には愛おしい物をみるような目があった。




