表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
7章 不死に至る路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/198

笑顔の行進

 彼女からすれば、これは想定外中の想定外だった。

 Ⅷが使う占星術は万能ではない。それは魔狩師協会での出来事を見れば分かる。もちろん彼女といえどその性質そのものを覆すことができるほどのものは持ち合わせていない。ただ彼女が優秀たる所以は自身の周りで起こる未来を観測することができるという点にあった。

 そしてその反対を言えば、それ以外に関しての占いを彼女は得意としていない。

 だからこそ、カラ爺が飛ばされた先なんてものを正しく予測することはできなかったのだ。

「おっと、これはどういう巡り合わせだろうね」

 裾を払ったカラ爺が顔を上げるとそこには写真で見た男がそこに立っていた。彼の手には何かの本があり、声をかけられてすぐにそれを持っていた鞄の中にしまって振り向く。

 そこは静かな樹林の奥地、一瞬にして吸い込んだ空気の質が変わる。

 まだ昼下がりも来ていないというのにそこは木々に覆い隠されたように静かに響めいており草木をかき分ける音が周囲から絶え間なく響いていた。

「失礼ですが、どこかで?」

 突然転移してきたカラ爺に驚くこともなく男は静かに尋ねた。もちろん相手もそれが目的とはいえないだろう、その証拠として鞄を地面に置いて両手を空けている。

「僕も貴方とは会うのは初めてですよ。ただ何にも知らないわけじゃない」

 声をかける前にあらかじめ札を二枚使って鴉を知らせに向かわせている。近くにある魔力の感じからしてあれはマイクラストくんとメイニーちゃんかな。雪広ちゃんたちの魔力を感じ取れないのが少し気になる所だけど今はもう少し目の前の男と話す余地がある。

「あなた、Ⅰですよね」

「………Ⅰ、ですか?なにかの暗号の話でしたら私は存じ上げませんが」

 彼は表情を変えない。だが一瞬、彼の片腕が微かに反応したのをカラ爺は見逃していなかった。

 これで偽物の可能性は限りなく低いといっていい。カラ爺は戦闘用の札を袖から出すタイミングを見計らう。

 沈黙の中でも活動を続けるのは森の木々たちのみで二人はまだ会話を始めてから一歩も動いていない。そして動き出すタイミングもまた、木々たちが教えてくれた。彼らの囁きは葉を揺らし波のように流れる風を示した。最初に動き出したのは男からだ。

 やっぱり、そういうところは全く誤魔化す気が無い。

「四方印、東西」

「とぼけているのにその魔術、どうして使うのか聞きたいですね」

 見たことのある構え、動作。魔術の構築から展開に関しては雪広ちゃんとは比べられないほどに速いが知っていれば躱すことはできる。躱したうえでカラ爺は裾から五枚の札を出した。

「癖はなかなか治らない。私もこの組織に属してしばらく経ちますが、Ⅳのように未だに本名を名乗ってしまいそうになるんです」

 開き直った彼のその手はさらに異なった形になっていく。雪広から見たことのないその技を次々に放っていくのを見てカラ爺はこの人がNo.0の幹部に選ばれている理由を理解する。

「八方印、南東」

 すかさずカラ爺は朝露を出して攻撃に備えた。しかしその攻撃は攻撃を伴うものでは無かった。

「相合傘」

 空間を掌握する、雪広家に伝わる魔術らしい魔術。原理は恐らく四方印東西と似ている気がする。だがしかしその空間は恐らくそれとは比べるまでもなく強固なものだというのがその空間からも分かる。第一外の様子が見えないほどに隔絶されている空間なのだ。自力でこれを破壊するというのは現実的では無い。

 試しに壁を叩いてみるがビクともしない。まるでコンクリを叩いているみたいに。

 男はゆっくりと近づいてくる。相手の作り出した空間である以上、その掌握権は相手にあると言ってもいい。ここで下手に手を出すよりも相手と対話を試みるほうが見込みはありそうだ。

「そうだね、少しだけ話をしないかい?ほらこの通り」

 持っていた朝霧を置こうとしたが、それを止めたのはⅠだった。

「安心してください空咲さん。私はあなたたちの味方です。……一応家接くんにも伝えたはずなんですけどね」

 Ⅰは苦笑いで顔上げたカラ爺を見る。彼が指を鳴らすと、一瞬で机と椅子とそしてカップが現れた。

「座りましょう。話はそこでゆっくり」

 深めのソファに二人とも座ると、注がれた紅茶はまるで淹れたてのように湯気を放っている。

 さっきの言葉からして彼は本当にこちら側の味方なのではないかとカラ爺は薄々思い始めていた。全てを信じるということはNo.0に所辱しているという点からして不可能だが、話を聞く、もしくはある一時点において利害の一致という可能性はなきにしもあらずということもある。一度ちゃんとここで話しておくべきなのだろうと考えた。何より、ここは相手の領域内。もとより何も反撃の手があるとは考えられなかった。

「それでお話とはなんですか?」

 カップを置いたⅠはまず状況を説明した。

「これからの事です。ここは八方印の空間内なので、他の誰かに悟られることはありません。なので密会には都合が良いんですよ」

 話が逸れたことに気がついたのか、咳払いをすると話を戻す。

「恐らくあなた方は私が中国に来たのを追ってきたのでしょうが、こんなにすぐに追いつかれるとは思っていなかったものでまだ準備ができていないんです。恐らくⅧが邪魔をしていると思いますが、大丈夫です。私は基本的に痕跡を残さないので私のことまで占うことはよっぽどのことが無い限りしない。なのでここからは貴方を信じて私の行く先だけを教えておきますね。私はこれから衡山に向かいⅠとしての目的を達成します。そこに来てください。叛逆の証を見せるので」

 そう言ってⅠはゆっくりとカラ爺の額に手を当てると、あらかじめ設定していたかのように元来たはずの空港へと飛ばされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ