だれでも魔法使いになれる!
失敗を恐れながら戦うことに意味は無い。
その占いに信頼の意義は無い。
「さて、私の占いを受けてみる?」
自分が信じてさえいれば占いであってもなんであっても、それは確信的な予言へと早変わりするのだから。自信は何よりの安定剤。私にとってそれは自身の実力の担保だった。
「これはすごいよ!まさかもうⅠの正体に近づいちゃうなんて!」
エリナ・ワイサーという少女がこのⅧという数字を授かってから受けた仕事の中で一番の驚きだった。
Ⅰというのはいつも痕跡こそ残しても繋がりは絶対に見つけられないように振る舞っていた。世界の網の中でその管理を行うこと自体、彼女のスペックとしては余裕ではあるがⅠというのは彼女からすれば少し手を抜いてもいい、いわば気楽な場面だ。それが今回はそんなことが無かった。こんなにもはっきりと痕跡を残してしまっては片手でしていたその作業を両手を使わないといけない。
「うーーん。これは、無理!」
痕跡を消すのが間に合わない。彼女の魔術では追いつかないと判断するとすぐに方針を転換する。
あらかじめ近くに来ていて正解だった。そのトレードマークである帽子と杖を持つと彼女は大使館から出る。パスポートなんてしゃれたものを入れる場所なんてないから、今の彼女は密入国者だった。
とは言ってもすぐに気づかれることはないはずだ。なぜなら証拠を消すという意味では彼女の右に出る者はそういない。重ねた隠蔽の先にいる彼女を見つけるのは容易ではなかった。
「もう来ちゃったんだ。でも私に会うつもりは無いみたい、Ⅻにも会わないのかなぁ」
それはそれで残念だけど、Ⅻはあんまり人付き合いは良くないから仕方ないかな。
空港に近づくにつれてⅠの魔力は離れていく。それは等間隔に現れては消えて、どんどんと距離を一気に離してあっという間に魔力感知の範囲を超えてしまった。
「あーあ、行っちゃった。Ⅰも冷たいなぁ」
海岸沿いに歩いて道ばたに座るとその水平線を眺める。
この海の先にある陸地の上で、今飛び立とうとしているものに彼らはきっと乗っているんだ。聞くところによるとⅠの目的はもうすぐ達成されるとかなんとか。
もしそうなら今は誰も彼を邪魔させるわけにはいかないんだよね。
「あのおじいさんがわざわざ私にこんな仕事を押しつけたのもきっとそういうことなんだ。しょうがないかな」
帽子の下に眩しい日差しは届かない。立ち上がって準備を始めるも、それは誰の邪魔もしない。
ただただ彼らの足止めをするためだけにしているだけで、私自身は戦闘員じゃないから。
「私もⅣみたいな力があったら良かったのになぁ」
そう呟いても仕方が無い。私よりも魔法少女みたいな子。
キャラ被りをしていると言われたらそうかもしれないけど、良いんだ。
きっと彼女の方が魔法少女に近い。でもあんなサイコパスな魔法少女なんて私が認めないんだから。
見た目はか弱く、力もあんまり無い。
だけどいざとなったらみんなのことを助けられる存在。それが私の目指す魔法少女の理想型。
「だから今日も私はみんなを助けるの」
準備は終わった。
私のとっておきはここに置いている。得意な場所で得意な方法で迎え撃つ。
それこそが私、Ⅷの十八番なの。
「それで、私たちに交渉の余地はあるの?」
相変わらず私には相手の姿が見えない。さっき一瞬相手の魔術が発動した瞬間、自分にかけられていた魔術が薄まって彼女の存在を知覚することで今は魔力の流れでなんとなく場所が分かる程度。
どういう理屈かは分からないけど声も姿も、五感では知ることができない。
「そもそも、あなたは誰ですか」
家接の問いに、彼女は忘れていたといった様子で名乗りを上げた。あまりにも短いその名は数字を冠している。だが相手の正体が分かったところで驚きはしない。Ⅰを追いかけているのにそれを邪魔するんだ。その相手が同じ穴の狢であることは言わなくても分かる。
「僕は、あなたを倒して進みます」
短剣を抜いた。カラ爺も、マイクラストたちもどこにいったかは分からない。だけど今は目の前のこの少女を打ち倒さない限り前には進めないんだ。
炎が宿って風が舞う。静かに漏れ出すその魔力はⅧの頬を刺すように撫でる。
歯噛みをする隣人に彼は気づかない。その少女に私は見えていないと私も語らず彼女も知らせない。異変はすぐに伝えるべきだと、教わらなかったのかな。
遅れて語った雪広の言葉に気づいたときには遅かった。
「ごめん家接。相手の術中に嵌まって相手が見えないの。だからあまり力になれないかも」
「……そういうことか。だからずっと静かなままで。うん、大丈夫。ここは任せて」
任せては虚勢だ。
少なくとも勝てるなんて風には全く思っていない。だが魔術を解かせる程度には意識をこちらに割かせる自身はあった。
距離を詰めようと踏み出すと同時に床に映る夜空が広がる。それはあっという間に広場を覆い尽くしてしまって動こうにも迂闊に変なことができないと家接は足を止めざるを得なくなる。
「あれ、足止めちゃって良いの?」
「術中にいる以上変なことはできないんで。雪広にかけた魔術だってまだ解かれないわけですし」
意外としっかりとした子だなと感心しつつ、視線を少女に移す。彼女は自分のことが今は見えないわけで彼の会話しか聞けていない。だがだとしたらどうしてそんな構えをしているの?
「あなた見えて」
「四方印、東西」
シャッターを、何も見えない空虚で斬った。
それは魔力がやんわりと感じることができるということと、家接の会話の方向から推測しただけの結局は勘に頼った攻撃。それを行うことに意味は多分無い。成功の確率の方がきっと低いはずだ。
「でも、これでいいの」
役に立たない置物としてそこにいるんじゃなくて、少しでも彼女の意識をそらせて本当は見えてるんじゃ無いのっていう不安を煽る。それさえあれば、足を止めた家接ならきっとまた動いてくれるはず。
杖を高飛びのように利用したⅧはそのまま一瞬空中に体が浮かぶ。家接はもちろんその回避行動の瞬間に自分の魔術が届く間合いまで飛び込んだ。
「風纏いて錬炎、彼の者を燃やし斬れ」
空中に浮いた彼女だったが、まるでふわふわと漂うようにして杖を使いながら攻撃を躱す。
その最中、彼女は詠唱を始める。
「私を視て、私を識って、私に語って」
さらに距離を縮めるが何故か余計に攻撃が通らなくなる。
「これは、何?」
家接の疑問に彼女は答えること無く詠唱を続ける。
「三度目を覚まして至る路に正解はなく、喜びに叩いた手は自らを称えない。
信じるな、信じるな。眼に映らない真実は現実ではない」
やっとのことで家接は気がついた。その魔術の原理が。これは魔術を詠唱するためにあらかじめ仕掛けられた何らかの魔術だと。地面に映し出された魔術が起動を始めているのが分かる。
「くそ、こうなったら!」
家接は先祖返りの力を使って辺り一帯を全て霧に包み込んでしまう。その際に雪広の手を引いてこの場から脱出しようとするが、彼女の詠唱はすでに終わりかけている。
「水面に映る幻想から私は視る。
88の星に照らされよ。アステリズム」
映された天体が迫り上がっていくと霧に紛れた二人を巻き込んでその中にへと閉じ込めてしまった。




