言葉の重さ
部屋に戻った瞬間、僕は雪広に抱きつかれた。
「……良かった」
「うん、ありがとう」
その後ろでカラ爺と男は冷静に今の出来事を分析している。そして僕の右手にはさっき彼に渡された一枚の写真がちゃんと握られていた。
「これ、Ⅰから貰ったんだ。私は敵じゃない。その証としてⅠになった当時の幹部が写った写真をあげるって」
カラ爺にそれを渡すと、雪広はそれを覗き込む。
正直どれも知らない顔だったので、経験豊富なカラ爺の方が見たことのある顔が多いかもしれない。
「確かにこれはお父さんね」
「私でも見たことのある顔は数名しかないですね。No.0の幹部だとは知らなかったですが」
これを担保にしてⅠは僕たちに何をさせようというんだ。
写真をカラ爺は撮ると、協会と公安に送ったらしい。どちらにせよこれはNo.0に近づく重要な手がかりだということに変わりはない。写真で撮った以上、これが消されることはあっても拡散されたすべてを回収するのは不可能だ。
「そういえば、あなたはこの中の人物に心当たりはありますか?」
男が写真の中の人物を一人ずつ見ていくと彼は興味深げに一人の人物を見て止まる。
「俺はこいつを知ってるぜ」
一番端にいる男。写真の中でも一番老齢な男性。その表情は穏やかで、どうにも人々を脅かすようなことをする組織に属している人物とは到底思えない。
「この方は誰なんですか?」
「俺も知らん」
さっき知ってるって言ったのに。だが男は続けた。
「名前は知らんが、こいつが何なのかは知っている、そしてその目的も。なにせこいつは単純なやつだからな」
「そうだ名前」
「?」
突然カラ爺が呟く。それに反応した男は何か気になったのかと彼を見るが、遅れて僕も気づいた。
「あなたの名前を聞いてなかったですね」
「……あぁ、そんなことか。俺は勝呂巴だ。好きに呼べ。話を戻すが、その爺さんの役割として一言でいうなら“開発者”だ」
「開発者?」
「そうだ。魔術っていうのは基本的に伝承で受け継がれてるもんが多い故に総数からすれば増えることはまぁない。昔の魔術をずっと使い続けてるんだからな。だがこの爺さんは現代に対応した魔術を生み出すために研究をしているって訳だ」
どことなくカラ爺と似たものを感じた。カラ爺の使うサテライトなんかは現代魔術と言ってもいい。そういった意味だと実力で幹部になっているというより、その腕を代われて研究職としてその地位にいるということなのだろうか。
「なるほど。では表立って現れることは基本的に無いということですね?」
「そういうことだな。俺も一度会ったのはⅠと共に行動していた時にたまたま出くわしただけに過ぎない。今となっちゃどこにいるかなんて言うのは俺も知らない」
警戒する必要はあるにはあるけれど、最重要と言うレベルでは無いということか。どちらかと言えば遭遇する可能性が高いのは他の写真に写った人々ということなのだろう。
「進展が無い訳では無いけれど、Ⅳについては全く分からなかったね」
こればっかりは仕方ない。むしろこういった場所があるということが分かった今、イギリスなどにもそういった何かがある可能性もあることが考えられる。
「Ⅰが今どこなのかも分からず終いか」
男は結果を知っていたかのように地下室から出ていく。それに続いてみんなも外に出た。
男はシリンダーを回しながら空を見た。放った弾丸は空を貫き、続いて訪れた静寂は虚しさを覚える。彼は本当にただⅠに会いたかったのか。そう思わせるような表情には声をかけるのを躊躇わせる。
「僕たちはここを離れるよ。あなたはⅠを探しに行くのかい?」
「ん?あぁ、そうだな。気長に探すかな。あいつは日本にいることは分かっているわけだし」
そう言って先にその場から消えたのは勝呂と言った男の方だった。
それから魔狩師協会からの情報に進展はなく、公安の方も同じくだった。ただ顔写真という有益な情報を得た今、彼らに近づいているのは確かなわけで。
ただ僕は勝呂の放った言葉に違和感を覚えていた。Ⅰは僕たちの味方だという証明をしようとしているけれど、彼は幹部としての役割を確実に果たしているような気がする。
日本で遭った出来事には一貫性があるようにどうしても思ってしまう。本当に彼は日本に留まるのだろうか。
「カラ爺、本当にⅠは日本にいると思いますか?」
「どうしてそう思うんだい?」
「それは……幽霊の出来事だったり、島での出来事だったり。Ⅰは不死の方法を探しているんじゃないですか」
そう言うとカラ爺は感心した様子で聞いてきた。
「魔狩師としての見解もそれと変わりない。どうしてそんな風に思ったか聞いてもいいかな」
これは自信なのかは分からない。ただ彼の実際に対面した僕の主観があるのかもしれなかった。
「Ⅰと会った時、妙に敵対感を覚ませんでした。まるで僕を取り込んでしまうような気迫がそこにはあった気がしたんです。僕の中には精霊の先祖返りがあるし、あの島での技術は死なない人を作ろうとしていたので」
「なるほど。君の勘は確かに大事だね。Ⅰの話した目的にはⅣの排除が含まれている。先にⅠを探すのも手かもしれないね」
日本を出る前に彼に追いつければ万々歳。そうと分かればまずは彼を探さなくては。
「さて、こんなに良い触媒があるんだ。占うなという方が難しいよね?」
カラ爺は不敵に笑い、楽しそうに電話を掛けた。




