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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
6.5章 洋館への導き、頂への湖底

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エゴまみれ

「娘が随分とお世話になっているみたいだね」

 第一声がそれは、かなりプレッシャーを感じる。僕は今一度、彼女に対して何かしていないかと懸命に脳内で思い返していたがそんな心情が顔に出ていたのか、彼は笑みをこぼす。

「そんなに深く考えなくていいとも。ただ、普段のあの子の様子が聞きたかったんだ」

「……優しいですよ。言葉ではあんまり素直に言うことはないかもしれないですけど、実際にはいろんなことに手を貸してくれたり意外と周りを見ていたりしてて」

 僕は自分の思いの丈をそのまま話した。その間彼はただ僕の話に耳を傾けて、その顔はまるで愛し子の話を聞いているかのようだった。

 話が終わると、満足したように彼は背にもたれかかった。

「そうか。いい子に育ってるみたいで良かった」

 親の言葉にしては軽く、敵の言葉としてはどう受け取ればいいのか分からない。

 そもそも僕はどうしてこんなところに呼ばれたんだろう。あらゆる出来事があまりにも突然すぎて僕は何をすればいいんだ。

 だがはっきりしていることはここにNo.0の、Ⅳの手掛かりとなるかもしれない人物がいるということ。

 それなら僕がすることは。

「二つだけ、聞いても良いですか?」

「もちろん。でも、二つと言ったからには私は本当に二つしか質問に答えないよ?」

「……分かりました」

 それなら十個くらいにしておけば良かった。

 でも質問が増やせないなら、最初に考えていた二つを聞くまでだ。

「なんで僕をここに呼んだんですか?」

 僕がどうしてこんなところに飛ばされたのか。彼の魔術についても知りたいところだけど、それを教えてくれるほどきっと彼は優しくないし、質問の数も足りない。

 彼は考える間もないほどに即答した。

「それはね、たまたまだよ」

「たまたま?」

「うん。でも一番興味があったのがキミだったから、私としては嬉しいかな」

 別に仕組まれたものじゃない?

 なら、あの手紙を読んだ瞬間に僕がここに飛ばされたのは偶然だったということか。

「じゃあ、あの手紙は」

「そうそう。あれはただ娘に向けて書いたものだから、他の人には恥ずかしくてとてもじゃないけど見せられないね。だから強引ではあるが、手紙に術式を施したんだよ。私が直接手紙を見た人を判断できるし、危険な人物だと思えば排除もできる。一石二鳥だと思わないかい?」

 確かにそれは理にかなってる。全く関係のない人物であれば排除すればいいだけ。これだけの強さを持ち合わせている人物なのであれば話し合ってから決断を下す程度造作も無いはず。僕程度じゃ相手にすらならない。

「分かりました。……じゃあもう一つ。Ⅳの居場所について教えてくれませんか」

 こっちが本命と言ってもいい。雪広が今一番探している相手。彼女の行方を追うための手がかりを少しでも手に入れたい。

「Ⅳの居場所かい?それはまたどうして」

「雪広に聞いたからです」

「…………まあそういうことだとは思ったけどね。私としてはあまり首を突っ込むべき事案ではないと、個人的にも親としても思うな」

「それは僕じゃなくて直接言えばいいんじゃないですか。何年も会っていないみたいですし」

「うーん、痛いとこついてくるね」

 彼は苦笑いをしながらお茶に手を伸ばす。家接が見ていると知ってか、すぐに答えを示さないといけないのは分かっているとその答えを示すように一枚の写真を机に出した。

「これは……なんですか?」

「魔術学園日本支部において観測された光を収めたものだよ」

 Ⅳの遺した置き土産的なもの。

 彼女は人形なんかを使って弄ぶだけ弄んで消えてしまった。

「僕としても彼女の行動は正直想定外だった。同じNo.0であってもそれぞれが独自に動いていることには変わりないからね。それに、日本というのは私の管轄内だ。Ⅳも見られていないとは思ってないはずだろう。次にこんな派手なことをしたら私が黙ってはいないことも含めてね」

 雪広のお父さんが日本の管轄であることは納得がいく。現地を良く知っている人がその土地を管理する。効率がいいのは確かだ。

 だけど、魔術学園でⅣが口にした自身の本名。

 あれはどう考えても日本名だ。日本の管轄じゃないならどこの管轄なんだ。

「そもそも、彼女の管轄はスイスだ。こんな辺鄙な島国にいることがよく分からない。一体何をしに来たんだろうね」

「でも彼女は、」

「おっと。質問は二つまでだ」

 僕はそれ以上聞くことはできない。彼女の管轄を知れただけでも良かったのだろうか。

 消化不良気味な顔をしていた家接を見てⅠは「今度は私が一つだけ質問をしようかな」と言って机に隠れていた手を上げる。

 あまりにも自然な所作に、反応が一瞬遅れる。

 短剣に手を伸ばした時にはすでに彼の魔力が刺すように溢れていた。

「申し訳ない、質問というのは嘘だ。これは私からの頼みだ。Ⅳを倒すのを手伝ってくれないかな」

 それは頼みだと言われているのにも関わらず、家接に向けられたステッキには明らかに有無を言わさない覇気がこもっている。この力量差の上で何かを言えるような度胸は家接にはもちろんない。静かに頷いたのを確認すると、ゆっくりと椅子に再び座る彼にはさっきまでの雰囲気を一切感じさせずに、穏やかな人物へと戻っている。

「こんな強引な形になってしまったのは本当に申し訳ないと思っているとも。だが、私としても彼女を討つことは残りの人生で果たさなければならないことの一つでね。だから許してほしいとは言わないけれども、理解はして欲しい」

 気づけば背中にはびっしりと汗をかいていた。

 あの一瞬で起きたことに体が驚愕を示している。確実に自分が死ぬかもしれないと思った瞬間だったからかもしれない。頬を垂れる汗を拭いながら短剣から手を離して、出された紅茶に口をつける。嫌いなはずなのに全く味が分からない。

「そういえば、君は四季にも会ったみたいだね」

「……今は入院していますけど」

「ああ。とても残念だ。私も継承権が無い中で八方印を使うことのリスクを重々理解している。それに彼が一番Ⅳに近づいていた。最高のタイミングだったはずだ、あれが人形で無かったのであれば」

 今も雪広のお兄さんは入院している。早く退院できるようになることを願うばかりで、何もできないことを彼女は時々口にしては気にしていないふりをする。

 空気はさらに重く苦しくなっていき、そんな状況を見かねたⅠは頼みを簡潔にまとめて話すとステッキを持って立ち上がった。

「さすがにこれ以上長話をしていると、みんなが君のことを心配するだろうからね。これだけ渡しておこうかな」

 彼は部屋にある戸棚から、一枚の写真を取り出した。

 それは撮られてどれくらい経ったのか分からないが新しいものではないのは確かだ。

「これは君達に対して敵対しないことの証明であり、僕が協力するという意味を込めた担保だ。受け取って欲しい」

 そこには12人が並んで写っている。そこにはⅠの姿もあり写真の端には2010年と書かれていた。

「これはその当時のNo.0の幹部全員の写真だ。念押しするが、私は君達の力になる。ではまた何かの機会があれば会おう」

 そうして彼がステッキを家接に向けると、視界がぐにゃりと渦巻いて再びあの部屋へと戻された。

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