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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
6.5章 洋館への導き、頂への湖底

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捨てた者、捨てられたもの

「Ⅰの正体はお前の父親だ」

 現実はとても非情で、同時に繋がれた糸はどこまでも千切れない。

 だが、彼女は四季と再会した時ほどの動揺を見せなかった。それはただ単に驚きすぎたからなのかそう察するものがあったからなのかは分からない。

 だけど僕からしたら彼女のその表情はとても悲しそうにしていたのだけは覚えている。

「そう。それでなに。なんでそれがあなたの目的になるわけ」

「そう怒るなって。可愛い顔が台無しじゃねえか」

 次の瞬間、雪広は男に向かって平手をした。

 相手もそんなことをされるとは思っていなかったんだろう。予想外の一撃に晴れた頬をさすりながらへらへらと笑いながら瓦礫の上に寝転んだ。

「いいか嬢ちゃん。目的までの道っていうのはまっすぐである必要なんてちっともないって知ってるか?むしろ回り道をしたほうが良い時だってある。だがそんなことがあるかもしれないやつは馬鹿正直にまっすぐの道しか選ばない。じゃあ脇道逸れたそこに何があるのかって、俺は気になって飛び込むんだ。そうしたらこれだ。案外いいこともあるって話だよ」

 男が蹴り上げた瓦礫の下から現れたのは大きな床扉。

 それは男自身も知らなかったんだろう。初めて見るような反応と同時に僕たちを手招きする。

「そんなにビビるなって。Ⅰの情報を少しでも知りたいんだろ?この家の下に地下室があるなんて俺は知らなかった。もしかしたらそこに重要な手掛かりが見つかるかもしれねえぞ」

「あなたが先に入るなら良いですよ」

 カラ爺が前に立って言う。それをすんなり男は受け入れるとすぐに埃を被ったその扉を開けた。

 いつから開けられていないのかすら分からない。かなりひどい錆によってほとんど扉が動かなかった。が、それを無理矢理開けたために彼の左手からは血が垂れている。

「ほら、入るぞ」

 まったく気にしていない様子で男は中に入っていった。

 何か仕掛けられているんじゃないかと、少しは気にしたりしないのだろうか。

 男はが黙々と階段を降りていく。そして外からの光がちょうど届かなくなったくらいになったたところで階段は終わった。ポケットから出したライターの光を頼りに通路をさらに進んでいくと一枚の扉にたどり着いた。

「なんだ、これ」

 試しに扉を叩いてみるが、それは金属の音を良く響かせる。蹴り破るなんて芸当をするのはおおよそ不可能だろう。確認したところ、一か所に鍵穴がありそれを開けばまだ進める可能性はありそうだ。

「一応確認だが、鍵は持ってないよな」

 振り返って尋ねた男だが、その視線の先は雪広だ。

 もちろんそんなものに心当たりのない彼女は静かに首を振る。それで分かったと言った様子で男は拳銃を抜くと離れるように言った。

「跳弾したら大変だからな。まぁでも、あんたがいれば問題ないか」

「そうだね、気にせずやってほしい」

 カラ爺の返事と同時に拳銃を鍵穴に向けると二発、三発と銃弾を叩き込む。

 ガコンと何かの外れる音がして扉がゆっくりと開かれた。

 かなり強引な開け方だったが、専用の道具が無い以上最も正しい方法だったのは間違いない。

「それで、何をあいつは置いてったんだ?」

 進んだ先にはやっと一つの部屋が見えてきた。感知式の魔術によってランタンが点く。

 光の灯った部屋は隠されていたにしては驚くほどのものがあるとは一見しただけでは分からない。

 基本的に並べられているのはたくさんの資料の山。重ねられた資料の中には新聞記事も見えて、二十年ほど前のものからここ数年前までのものまでまばら。

 だけど埃を被っているところを見るに最近はここに足を踏み入れていないみたいだ。

 記事について少しだけ触れてみたけど、一貫性が無いというか何かしらの事件について取り上げたものばかりを取っているみたいだったがそれ以上に絞れるようなものはなかった。

「となると手掛かりは、この戸棚か」

 この部屋で記事と他に残すものがあるとすれば明らかに不自然に置かれた戸棚だった。

 そこにはガラスで見える部分に一本の鍵と手紙。そして砂時計が置かれている。

「娘へ。なんだ、お前宛てじゃねえか」

 男は雪広にその手紙と鍵を渡すと、もう一つ砂時計を観察する。カラ爺もそちらに興味を示したようで僕たちは手紙の方を見ることにした。

「まずは先に雪広だけで見た方が良いよ」

「そう?ならそうする」

 開いて早々、彼女は私が先に見といて良かったと言い始めた。どうやら家族の思い出なんかもそこに書かれているみたいで恥ずかしいらしい。

 便箋は三枚あり、一枚目はなんてことのない親子同士での思い出話に留まった。二枚目にこの部屋について。そして三枚目に、戸棚に入っていたものについてだった。

「この手紙を見たのが静であることを願うよ。そうでないなら……家接、これってどうやって読むの?」

「ん?」

 そう言って彼女の手紙を覗いた瞬間だった。

 まるで意識が手紙の中に吸い込まれるような感覚と共に、魔術が起動する。

 あとで気づいたことだけど、便箋の裏にはしっかりと魔術の回路が書かれていた。

「家接!」

 咄嗟に雪広は手紙を放り僕の体を支えるが、やがて立っていることすらままならなくなる。そのまま意識が遠のいていく感じがしながら何にも動かせなくなってしまった。

 誰かが遠くで呼んでいる。その声すら聞こえなくなった瞬間、意識が途端に戻ってきた。

「目が覚めましたか」

 近くで僕を気にかける声がした。

 耳を傾けながら目をゆっくりと開けるとそこは洋画に出てくるだだっ広い応接間みたいなところだった。まるでセットされているかのようなその空間にゆっくりと近づいてくる足音がする。

「ありがとう」

 足音はまたゆっくりと離れていった。

「さて、君は一体誰なんだい?」

 やっと、自分の目の間にいる人物の顔を見た。初老のその男性は顔も体も年齢に対して整いすぎている。だれか分からない相手だが、ここは知らない場所だ。僕はただ男の質問に答えるしかなかった。

「家接、孝也です」

「よろしくね家接くん。そうだ、私も自己紹介をしておかないとね」

 聞いたことのある響きを携えた男は、紅茶を一口飲むと静かに語る。

「私は雪広総一郎。君達が一番聞いたことのある呼び方だとⅠかな?よろしくね」

 雪広の父親が、そこにはいた。

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