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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
6.5章 洋館への導き、頂への湖底

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男に二言はない

 機械と人力と魔術。それぞれが同時にぶつかったとき、その差を生むとすればそれは速度に他ならない。

 結論から言えば人力というのは例外を許さない限り機械と魔術と競り合う土俵に立つことすら難しい。そして機械と魔術がぶつかったとき、それは術師の技量もしくは機械の性能が決着を生む。

 ならば、最高の機会に優秀な魔術師の魔術が加わるとどうなるか。

 それはもちろん、最強と言わざるを得ない。

「で、なんで戦えてるんだ?」

 男は手を抜いた覚えは一切ない。いたって本気の業だ。

 そしてそれは彼の技術が衰えたわけでもない。齢20前後にしてそんなことが起こってたまるもんか。

 ただ単にカラ爺の使う朝露との相性が悪すぎるだけ。そして相性を補完する戦い方を好むカラ爺との相性が悪かっただけだ。

「おいおい嘘だろ」

 ほとんど見えない速度での戦い。その早業は彼がくさいセリフを吐いていたとしても笑えないレベルではある。しかしどうしてかカラ爺はそのすべてを扇子で防いでしまっていた。

「僕だけ見てていいのかい?」

 その余裕の笑みに、男は一瞬周りを見る。特に何も変化が無い。目で見える変化はどこにもないが、それを感覚的に受け取った男はカラ爺の狙いに気が付いてすぐさまその場を離れた。

 瞬間、そらから光が降ってきて男のいた場所を焦土にする。

「んな無茶苦茶な。というかよくもこの家壊してくれたなお前」

「でも君から仕掛けたんだからこれくらいは許してよ」

「これ以上壊すなよ、おっさん」

 男は銃の弾倉を入れ替えると、カラ爺に向けて放つ。

「同じ手を何度も使うってことは、何かあるってことかな?」

「そうだ。でもタネが割れてなくちゃ意味ないだろ」

 男は常に二丁の拳銃を使って戦っている。一丁の銃は確かにカラ爺に向けられて発射されていたが、もう一丁は明らかにカラ爺から狙いをそれて彼の背後に向かって跳んでいく。しかし自分に向けれられた銃弾を止めたところで男は笑った。

「これではっきり分かんだ」

 壁に埋まったはずの弾丸は何を思ったのか壁から剥がれてカラ爺の方に向かっていく。

 背後からの弾丸に気づいたのは壁から剥がれた音がした時。

「そういうことね」

 朝露の能力の範疇に属さない攻撃。それを彼は分かってか分からないでか行った。

 カラ爺はなんとか鉄扇で防いだがそれはつまり男に背後を見せるということ。その隙は見せるには大きすぎた。

「降参するか?」

 言いながら銃口をカラ爺に向けようとして男は違和感を覚えた。自分の体が自分の体じゃないような、そんな変な感じ。その些細な異常に気付いたときにはすでにカラ爺は動き始めていた。

「まだ早いと思うよ」

 右足を回転させて男の腕を蹴り払うと、そのまま手から離れた銃を拾い上げる。

「その扇子、思った以上に嫌なもんだな」

「そうだよね。僕もそう思うよ」

 こうなると男から仕掛ける理由がなくなる。せっかく生み出した優位性をこんな簡単に覆されてしまっては意味がない。

 男はめんどくさそうに銃を回す。その回転がおさまったのは、さらなる介入者があったから。

「カラ爺、連れてきたよ!」

 家接が雪広たちと一緒に戻ってきた。

 男はまだ戦い足りない様子だったが、駆けつけてきた人の内の一人を見てその手を止める。

「何?なぜこんなとこにそいつがいるんだ」

 だがその疑問に答える間もないままに、耐え切れなくなったのは建物の方だった。突然音を立て始めたかと思うと、天井が崩れて崩壊を始める。

「走って!」

 カラ爺の声に四人は走って入り口に向かうが残された二人はそのまま崩壊に巻き込まれる。

 その最中、カラ爺は雪広によって助けられたが男は最後にカラ爺に視線を送るとそのまま見えなくなった。瓦礫の落ちる音はしばらく続いて、最後のひと欠片が落ちると跡形すらなくなってしまった建物の前に五人は立ち尽くす。

「何も分からないままだったね」

 瓦礫に埋もれたであろう男の話を聞く間もなくその戦いは終わってしまった。さらにはⅠの痕跡があったかもしれない建物も、この有様ではどうしようもない。

 骨折り損のくたびれ儲けとはこういうことを言うんだろうな。

「僕は一応彼の生死を確認しておくよ。まだ生きていたら話を聞くチャンスはあるから」

 そう言ってカラ爺だけがここに残ることを提案する。それについては誰も異論が無かった。今の状態であの男と渡り合えるのはこの中にはカラ爺以外いないと分かっている。

「おいおい、勝手に殺すなよ」

 カラ爺と渡り合える人物がこんなことで死ぬはずなどなかった。

 男は瓦礫の下から這い出て服についたほこりを払うと銃をしまう。もう戦えないということなのか、もう戦う必要がないということなのか。それは分からないけどゆっくりとこちらに近づいてくる。

 全員警戒を高めたが、カラ爺は手で全員を制止すると朝露をしまう。

「何か、話してくれる気になったのかい?」

「そういうこった。本当はさっさと追い出してしまいたかったが、無視できないもんを見ちゃったんでね」

 その視線は誰に向いたのか。家接には分からない。すぐにカラ爺にその視線が戻ると男は瓦礫の上に座って煙草を吸い始めた。

「吸うか?」

「いいよ。僕はだいぶ前に辞めたんだ」

 数口で煙草を消すと、彼は立ち上がって明確に意思を持って彼女の前に向かった。

 目の前に立たれた雪広はただ困惑するしかない。

「……何?」

「お前の兄は、今昏睡状態なんだってな」

「どうしてそれを!!?」

「なんていえばいいんだ?まぁ、手早く言うなら俺の唯一の務めだからだ」

 男は髪を搔き乱しながら雪広の困惑した表情を見つめる。

 そこに懐かしさはあれど、尊敬はない。もどかしい気持ちになってしまうのは俺の方だけだと男はため息を吐いた。

「俺がⅠを追いかけるのは自分自身のためが一番だがその次の理由があるとするならば、それはお前とあいつを引き合わせたいからだ」

「どういう意味?」

 これはきっと彼の思惑通り。そうなる運命だったように仕組まれた歯車。俺ですらその一つに過ぎないんだな。

 そう男は嘲りながら、彼女に一言。真実を伝えた。

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